テイルズ小説
□ヴェスペリア学園卒業式
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桜の舞う校門に、大きく記された“卒業”の文字を見て、ユーリは軽くため息をついた。
「今日で最後・・・か」
今日は、ヴェスペリア学園卒業式。
三年のユーリ、フレン、エステル、リタは卒業である。
下級生のカロル、パティと、教師のレイヴン、ジュディスはこの学校に残る。
別に永遠の別れという訳でも無いのに、何だか名残惜しかった。
「ユーリ?」
「・・・フレンか・・・」
「こんなところで何をしてるんだい?皆集まってるけど」
「ああ・・・」
卒業看板を流し見ながら、体育館へと向かった。
そこへ行く途中、カロルがいきなり飛びついて来た。
「ユーリいいいいィっ!」
「ぅおあ!!?何だよカロル・・・どうした?」
「ユーリ、卒業しないでよおおぉぉ〜っ!!」
カロルは泣きながらそう言った。
「仕方ねーだろ?逆に言えば卒業できない方が問題だぜ?」
「でもおっ!でもっ・・・!」
そりゃあ、卒業するのは悲しいけど、仕方のない事だ。
それに、こうして自分と会えなくなるのを悲しんでくれる人がいる、というだけで嬉しい。
「ユーリっ!!!!」
「パティ?」
「カロルとばっかり喋っててずるいのじゃっ!!」
「あー悪い悪い。」
「ユーリが卒業するのは悲しいけれど・・・応援しているのじゃ!」
「ありがとな・・・パティ・・・」
「せーねん♪」
「・・・おっさんかよ」
「何よその反応っ!・・・せっかく悲しんであげてんのに」
「へー?俺が卒業してせーせーすんじゃねえの?問題児が減って。」
「馬鹿ねえ。ユーリ君だって可愛い生徒よ?そんな訳ないじゃない」
「・・・今まで、苦労かけたな。ありがとよ」
「はいはい。んじゃ、おっさん行くわ。頑張ってね?」
「ああ。」
「ユーリ。」
「よおジュディせんせ。」
「あなたが卒業すると、保健室の利用者が一気に減りそうで寂しいわ。ねえ?喧嘩番長さん」
そう言って、ラピードの頭を撫でた。
「ある意味、この子の方があなたより喧嘩上手なんじゃなくて?無駄にキレないところが。」
「っはは、そうかもな・・・」
人に撫でられるのを好まないラピードも、今日は拒まない。
・・・実に空気を読む犬だ。
すると、ジュディスの細い手がユーリの頭にポンっと乗せられた。
「これからも、がんばってね?」
「言われなくても分かってるよ。」
照れ隠しするように、手を払いのけて奥へと進んだ。
一方のエステルとリタも同じ目にあっていたらしく、歩けど歩けど人に声を掛けられ、足止めを喰らっていた。
「あっ・・・ユーリ!!!」
「ちょっ!?エステル、何処行くのよーっ」
リタも慌ててエステルを追いかける。
「ユーリ、今日で最後なんですね・・・」
「ああ、そうだな。」
「リタ、寂しいです?」
「そっ・・・そんなこと、」
と言いながらも、リタは顔を真っ赤にしていた。
今にも泣きそうだ。
「今日で終わりだと思うと、なんだかしみじみしますね。今まで、この学校であったことが全て、“過去”になるんですから。」
「だよな。つい昨日まで普通に生活してたのにな。この学校で」
「そうよね。だからこそ、こんなに不思議な気持ちになるのかもしんないわ。」
「でも、」
いちばん大事なのは、過去を過去のままにしないことだ。
「終わったわけじゃねえ。」
過去は“思い出”に変換できる筈だから。
皆、言わなくても分かっているようだった。
だからこそ、涙を流さない。
「行く、か・・・」
そう言って、エステル達よりひとまず先に向かう事にした。
「・・・フレン?」
「・・・ユーリか」
「どうしたんだよ。こんなところで・・・先に行ったんじゃなかったのか?」
「君に話があるんだ。」
「話?」
突然、フレンがユーリを殴り倒した。
「ぐ、あっ・・・・!何しやが―――」
「ユーリ。君は、生徒会長である僕から見て非常に問題な生徒だ。でも、君は僕の親友だ。だが、その事とそれは別。」
「は?」
「僕は、君を問題児として見ながらこの学校を卒業したくは無いんだ。だから、今ので勘弁してやるよ・・・。君はもうただの生徒だ。」
「フレン・・・」
「よかったよ、君と一緒に卒業することができて」
「ああ・・・俺もだ。」
少しずつ、体育館が近づく。
終わりであり、また始まりであるその扉を、
二人で同時に開いた。
卒業しても、この友情だけは終わりませんように、と。
End