SkyFeather&Future

□No.8 嫌いになれないもの
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ピピピピッ、と目覚まし時計の電子音が俺を夢から覚醒させる。
カチッと時計のスイッチを押して音を止める。
朝の陽気が眩しくて目を閉じていても、目の前が赤くなるくらいだ。

「う……」

俺は赤い視界から生活感あふれた部屋が映る視界に切り替える。
ゆっくりと体を起こすとシャンプーでさらさらになった髪が肌に触れた。
手鏡を取って、ゴムで結ってある長い前髪をいつもの水色のやや細長いヘアクリップで留めた。
前髪を留め終わると、俺は部屋を出てリビングへ向かう。

「おはよう、十也」
「おはよ。今、卵とパン焼くから」

俺はトーストをオーブントースターに入れてタイマーを3分に合わせる。
その間に卵を溶いて、フライパンに油を入れ、コンロの火を点ける。
いつもなら目玉焼きだが今日は時間があまりなく、同時進行なので卵はスクランブルエッグだ。

「牛乳、新しいのあるから」
「わかった」

父さんが牛乳を冷蔵庫から出すと同時にチンッ、とオーブントースターのタイマーが鳴る。
俺は火を止めて、スクランブルエッグを盛り付けてからトーストを取り出す。

「よっ、と。出来た」
「おお、すまん」

皿をテーブルに置いた後、食器を取り出してから自分の分の牛乳を注ぐ。
必要なものを全て揃えてから椅子に座り、手を合わせる。

「いただきます」
「はい」

しばらくぶりの親子のいただきます。
俺は昨日の先輩の言葉を思い出しながら焼き目がちょうどいいトーストにかぶりついた。

「父さん、美味い?」
「ああ、美味いよ。十也」
「やったっ」

嬉しさの勢いでがっつく俺。
落ち着け、と父さんに視線を送られたが俺はしっかりと飯を平らげた。

「ごちそうさまでした」
「はい」

食器を片付けて、父さんを見送る。

「行ってらっしゃい」
「ああ、行ってきます」

父さんが出ていったのを確認して、俺は制服に着替える。
傷の残る左の手首には腕時計をつける。
鞄を肩にかけて、部屋から、玄関へと移動する。

「いってきます」

誰もいない家にそう残して、ドアの鍵を閉めてから走り出した。

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