SkyFeather&Future

□No.10 笑ってよ
1ページ/7ページ


今日で俺は退院の日を迎えた。
この前の騒動で勝手に動いたことをギンジさんに注意された(しかもそれを知って俺に指令を与えていた先輩が始末書を書かされた)が特に不都合はない。
入院したことで心配していた体力も日に日についてきている。
実は隠れて常に自己流リハビリをしていたため体力を落とさないようにしていたのだ。
体力は落ちなくなったが以前より痩せたような気がする。
俺は元々痩せている体型なのだが昔から痩せている訳ではないのだ。
むしろその逆である。
俺は何かある度に体重が減る体、言わばストレス痩せする体なのだ。
なぜそうなったのか、知ってはいても教える気はない。

「いやー、退院おめでとう!!」
「よかったー! 十也ちゃんが元気になってっ!」
「もう、自分の体くらい大切にしなさいよ」

クラッカーの音に続けてひとりひとりメッセージを残す。
そそくさと先輩が紙テープ類を片付けるとメインであるジンギスカンが姿を現す。
実は今日、俺の退院祝いに先輩が家にみんなを呼んでくれたのだ。

「よーし、どんどん食え!」

タレに漬けられた肉をジンギスカン鍋に乗せていく先輩。
隣でユキナが野菜やらしらたきやらを空いている場所に置いていく。
しばらくして肉がいい色になった時、次々と箸が伸びていった。

「あ、勝手に取るなよ! お前何も手伝ってないだろ!」
「十也ちゃんもっ!」
「あのねぇ、フラン」
「その十也が主役なんだから自重しなさい」

先輩とユキナにあっけなく取り押さえられるフラン。
俺はニヤリと口角を上げて狙っていた肉を回収した。

「働かざる者食うべからずだ」
「調子に乗るな、あんた」
「うー! お腹空いたらなんにもできないんだよっ!」
「食べ過ぎても何もできないけどな、ついでに言えば食べた後寝たら豚になるぞ」

妹をたしなめる兄の姿がなんとなく微笑ましい。
本当に彼らは不自由なく暮らしていたのだろうか。
俺はそんな疑問が浮上し、するべきではないところである質問をする。

「先輩って、いつも楽しそうにしてますけどいつもそうやって暮らしてるんですか?」

5秒ほどの沈黙が出来る。
やはり、聞くべきではなかったか。
俺が後悔しかけた時、ようやく先輩が口を開いた。

「まぁ、正しいっちゃあ正しいけどマルではないなぁ」
「どういうことですか?」
「金銭的には豊かなんだけど、本当はそうでもないってことさ」
「あたしの家にパパもママもいないの、ずーっと仕事でねっ」

彼の言葉にフランが言葉を繋げる。

「俺は物心ついたときには妹2人の世話をしてた、その頃は叔母さんが一緒になって面倒見てくれたけど気がついたらもう3人だけで今に至るまで暮らしてるのさ」
「あたしたちが学校行ってる間にパパとママが海外でえらーいお仕事してるのっ」
「こらこら、そこは言わんでいい」

軽くフランの頭を叩く先輩。
口調は笑っていても表情は笑っていないように思えた。

「あ、しんみりしちゃったね。さー、食べよ食べよ!」

気まずい空気を変えるように先輩がボウルに入った肉を全て焼く。
俺はさっきの話が聞きたくなり、こっそりメールで打ち合わせをしてここに遅くまで残ることにした。

.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ