SFの箱

□空から彼氏
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「くっだらない・・・」
リモコンで、テレビの電源を切る。
今日始まった、深夜アニメを
見るともなしに眺めていたが、
始まって10分で、飽きてしまった。

それから、別のリモコンで、
扇風機のスイッチを切る。
エアコンは、極力使わない。
昼間、会社で散々冷気にさらされている為、
体調がすこぶる悪いのだ。
窓をあけて、扇風機をつけていれば、
熱帯夜も快適に過ごせる。
この部屋は、マンションの3階だし、
セキュリティはしっかりしている。
就職祝いに、おじいちゃんがポンっと
買ってくれた、2LDK。
独り暮らしには広すぎるけど。

「あ、お腹すいた。」
独りの部屋で、独り言・・・。
虚しいか?
いや、これは、癖だし、独りは気楽でいい。
数ヶ月前、年下の彼氏が出て行って、
独り暮らしが、こんなに快適なものだったかと、
改めて感じた。

窓を閉めて、タンクトップの上に
半そでのパーカーを羽織る。
膝丈のスエットパンツを履き替えようかとも思ったが、
面倒くさい。
金曜日と土曜日の狭間の深夜2時。
歩いて5分のコンビに出かけるのに、
着替えもだるい。
セミロングの髪は、きっちりゴムでまとめ直した。
素足にスニーカーを履いて、玄関を出る。

湿度こそあるが、風が気持ちいい。
財布の入ったパーカーのポケットに
手を入れて、歩きながら空を見上げる。
霞のかかった、満月が見えた。

さっき見ていた、アニメを思い出す。
空から、美少女が降ってきて、平凡な・・
どちらかと言うと、冴えない
独り暮らしの男子と同居しはじめるとゆー、
なんとも、ご都合主義な、
ありえないお話。
同じオープニングのアニメを、
数ヶ月前も見た気がする。
あーゆーのが、最近の男の子の願望なのか?
「ま、美少年が降ってくるのは、悪くないな。」
鼻で笑いながらつぶやく。


「いらっしゃいませ。」
コンビニに入ると、若い店員の声が投げかけられる。
彼の顔を見る事も、返事をすることもない。
そんなの、普通。
希薄な人間関係。
そんなの、普通。

ドアの横のカゴを取り、
ドリンクの棚に向かう。
扉を開けて、お気に入りの
微炭酸オレンジを取り、
菓子パンの棚で、
新商品のメープル味のデニッシュを
紙パックの牛乳、
鮭のおむすび。

ワンパターンだな。

レジで支払いを済ませ、
商品の入った袋をぶら下げて、
店を出ようとすると
入れ替えで、学生風の男子が
3人騒がしく入ってきた。
そのうちのひとりと、肩がぶつかる。
「あ、すみません。」
軽く頭を下げて、すり抜けようとしたが、
肩を掴まれた。
「なに?」
ニヤけた酒臭い顔が近づいてくる。
酔っ払いだ。

「おねーさん、イイにおーい。」
ああ、さっき、風呂に入ったばっかだからな。
「俺達と、遊ばない?」
いや、こんなすっぴんの、
色気も何も無い女が好みか?
私の口元が引きつる。
「あー、家で彼が待っているんで・・」
「えー、彼氏いるんだぁー。」
「ま、まあね。」
私は、後ずさりながら、
店のドアから離れる。
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