夢以外

□バレンタイン哀歌
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「ようこそ、リュータ。野郎だらけのバレンタイン・パーティーに。イエー」

「いや全く意味わかんねえぞサイバー」

 その日自教室に普通に入ると、何だか雰囲気がおかしかった。
小学生のお楽しみ会よろしく、輪かざりとかティッシュの花とか、テンションばかりが高い飾り付け。
それをやったのは多分ここにいる彼女がいると噂もされたことない男子(そもそも女子は不思議なことに一人もいない)共だ。
思い思いにクラッカーを鳴らし、騒ぎ、チョコレートを貪っている。それなりに賑やかなのに、何故か辛気臭い。

「意味わかんねーことねーだろ。リュータ、心当たりはないか?今日は二月十四日、バレンタイン・デイだ」

「さっき言ったけどな、全くわかんねえよ」

「おう。じゃあ聞け。
このパーティーはな…オレ達みたいに、母親以外からチョコを貰えない男たちの、最後の安住の地だ。
言うなればジ・ハード!…わかるか?」

 サイバーの脳のレベルを本気で心配しつつも、これ以上絡まれるのは面倒なので頷く。
ツッコミは心の中で地味にしておいた。
わかんねえよ。なんで安住の地で戦ってんだよお前ら。

「でも、まあ確かに…」

 性格が渋いとなぜかもてるナカジや、黙っていればイケメンのタロー、他にももてそうな連中は一切見かけない。
来る必要がないからだろう。
それにもてない連中からすれば普段は友達でも、今日ばかりは敵でしかない。
ああ、なるほどだから安住の地。悲惨すぎて涙が出そうだ。

「な。だから楽しんでいけよリュータ。
女がお前を受け入れなくても、オレらがお前を受け入れてやる。
なぜならばオレらがもてないという言葉の元集った『仲間』だからだ。
…そう、お前がここに来たのは偶然なんかじゃない。お前はこのパーティーに呼ばれて来たんだ」

 サイバーがオレの肩に手を置く。あのゴーグルみたいなサングラスの奥の目が、かつてないほど優しかった。
正義の味方ごっこによって形成された熱血ヒーロー口調にもはや哀愁すら感じる。
 それでも俺はもてない男として――サイバーたちの仲間として、誠実に対応しなければならないと思った。
でなければ彼らに失礼だから。俺はサイバーの肩に手を置く。
言わなければならない。
こんな感じ。ありがとう、サイバー。俺はお前らの仲間だ、裏切ったりなんかしないぜ。



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