short story

□翼(陣)
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女が言った、翼が欲しいと。
男は答えた、何故なのかと。






「だって、欲しいものは欲しいんだもん」
「って言われても、わかんねーべ」
「陣は飛べるからいいじゃない」


人間界の海ってところの近くの岩場で話す男女二人。
女の名は沙知、男の名は陣といった。
沙知は岩場に座り込み、足をぶらぶらさせる。陣はそんな沙知の様子を潮風を感じながら見下ろす。


「人間界って、綺麗だよね。魔界とは大違い」
「んだな。風も心地いいし」


陣はふわふわと体を風で浮かせながらそう言った。
そんな陣を尻目に、目の前の海を見つめる沙知。
眼前には太陽の光できらきらと光る水面。
海と空、同じような色をしているのに、その境目がはっきりと見えるのが不思議に感じてしまう。
これが光というものなのだろうか、とも思う。


「凍矢が光に対して凄く執着してるけど、陣はどう思う?」
「んー・・・、よくわからないべ」
「あはは、陣らしいや」


陣は沙知の後姿を見ているのに対し、沙知は全く陣の方へ向こうとはしなかった。
ただただ、目の前にある景色を見つめている。


「俺はこの島さえ手に入ればなんでもいいや」
「そ」
「・・・ちょっち、飛んでくるだ」
「あ、陣っ」


沙知の呼びかけも虚しく、陣は空の彼方へと飛んでいった。






 
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