short story
□奇跡のロボット(鈴木)
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.....起動シマスカ?
あの人の手によって私は生を授かりました。
「おぉ・・・!漸く完成した・・・」
「・・・ワタシ、ハ」
「良し、誕生した記念に名前を与えよう。沙知、というのはどうだ?君を作っている時から考えていた」
「・・・インプット完了シマシタ。アナタハ」
「鈴木だ」
「スズキ・・・。インプット完了シマシタ」
鈴木の手より作られたロボット。
見た目、感触、声、動き、何処からどう見ても人間の少女の様に見える風貌。
まさに人間と呼んでも過言では無い出来栄え。奇跡に等しい誕生であった。
彼女が誕生してから生活に色が付いた鈴木。
だが・・・、
「沙知。どうだ、綺麗だろう?」
「・・・・・」
鈴木が差し出したピンクが基調な花束を見ても沙知は無表情な上に無言で花を見る。
綺麗≠ニいう言葉の意味を理解していない様子である。
「今度はコレだ!沙知に似合うと思ってな。可愛いだろう?」
次に鈴木が見せたのは沙知ぐらいの年頃の少女が好きそうなワンピース。
コレに対しても沙知は花の時と同じく、全く反応しない。
しかし、数秒置いた後に、
「着替エレバイイノデスカ?ソレガ、スズキノ望ム事デスカ?」
「・・・いや、いいんだ」
沙知は鈴木が望む物は何でもするように認識してしまっている。
鈴木がコーヒーを欲しいと言えばコーヒーを淹れ、部屋が汚れてれば掃除をしたりと、あくまでも事務的な事しか実行しないが。
何を言われても、何をされても沙知は表情を変える事はなかった。
「スズキ、寝ナイノハ体ニ悪イソウデスヨ」
「また俺の部屋の本でも見たのか?」
「私ハヨリ多クノ知識ヲ身ニ付ケル必要ガアリマス」
「知識より身に付けてもらいたい物は他にもあるんだがな・・・」
「今度ハ何ヲ作ッテイルノデスカ?」
「君の心」
聞き慣れない単語が出るなり沙知は首を少し傾げる。
「ココロ、デスカ?」
「そう、心。君に足りない物だ」
「足リナイ・・・。何ヲスレバイイノデショウカ」
「そういう事じゃないんだ」
困ったように鈴木は笑い、沙知の頭に手を乗せる。
撫でながら必ずわからせてやる、と言い再び机の上にあるコンピュータを動かす。
カタカタとキーボードを叩く音が部屋に響く。
「(ココロ・・・。私ニ無イ物・・・)」
沙知はそれ以上の事は考えず、鈴木の部屋を後にした。
「スズキ、朝御飯ガ出来マシタ」
「う〜ん・・・。ハッ!今何時だ!?」
「八時デス。朝御飯、ココニ置イテオキマス」
「あ、あぁ。すまない・・・」
毎朝八時きっかりに沙知は朝御飯を用意する。
朝だけではなく昼も夜も毎日毎日、決まった時間ピッタリに作り上げる。
鈴木が留守でいなくても決められた時間に作り、冷めようが腐ろうが沙知には関係ないし理解出来ない。
仮に作った物を捨てられたとしても沙知は傷付いたりしない。
沙知が心を持たないロボットだから故に。
「沙知と一緒に食べてみたいな」
「私ニハ必要ナイデス」
「そうか。・・・そうだよな」
味噌汁の入ったお椀を持つ手と箸を持つ手が震える。
ドウシタノデスカ?と沙知は聞くが、表情は相変わらず無表情。
「スズキ・・・?目カラ何カガ流レテマスヨ?」
「そうだな・・・。止まらないんだよ、これが・・・」
「ア」
力が入らなくなった鈴木の手から箸とお椀が落ち、中に入っていた味噌汁がぶち撒かれてしまった。
多少の熱さがあったにも関わらず、鈴木は構わずただただ涙を静かに流す。
沙知は一瞬目の前で起こった光景に声を上げたものの、
「掃除及ビ洗濯ヲ開始シマス」
すぐ平常に戻り、鈴木の涙を気にせず作業に移ったのであった。