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□ハイウェイの誘拐
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「あれ? どうしたんですか、ヒバリさん」
深緑色の作業衣に身を包んだ沢田綱吉が、あちこちに黒いオイルを飛ばした顔を上げた。
手には分厚い軍手と巨大レンチ。見るからに整備中といった風体だ。雲雀は呆れたような気分で息を吐いた。
「整備なら家でできないの。わざわざここですること?」
「そりゃあ最初は万全で来たんですけど、ちょっと不具合が――」
言葉の途中で、綱吉がはっと何かに気づき振り返る。手で指差しをしながら叫んだ。
「ジャンニーニ! ちゃんと手元みながら作業してってば! あとタイヤ周りはもういいんだって!」
「しかし十代目、このままでは速度が上がりません」
「試運転なんだからいいの! 負荷テストは戻ってからやるよ」
オイル汚れがこびりついた新車を挟みながら、綱吉とジャンニーニが喧嘩さながらの大声で言葉を交わしている。
高速道路の一角での会話には似合わない。わざわざ公共道路を貸し切ってまでやることがこれか。
相変わらずこの子は段取りが悪い、と様子を見に来たばかりの雲雀は嫌そうに肩を竦めた。
「日が暮れるまでにできそうなの。延長はなしだよ」
「あー……分かってますよ。あとちょっといじったらもう一回走ります。
ヒバリさんはどうしたんですか?」
「様子を見に来ただけ」
午前中に限ってだが、公共道路を封鎖してボンゴレファミリーがそれを使用できたのは、風紀財団の権限があってこそだ。
新発明の試運転。
バイク型をしている乗り物に好奇心と興味を引かれて雲雀は見に来たのだが、どうやらまだ完成に至っていないようだ。
「走るまでもう少しかかりますけど、ベンチで待ってますか?」
「ここでいいよ。それより手、動かしたら?」
雲雀が腕を組んで待つ姿勢になれば、綱吉は顔を青くしてすぐに作業に戻っていった。
小さい両手で一生懸命レンチを回している。
作業をしながらジャンニーニと何度も確認を取り、時折手を止めて仕様書に目を通した。
どうやら、市販されているバイクの規格とは違うようだ。同じならば発明する意味はないが。
……五分、六分経った頃。
腰を伸ばすように疲れた顔で綱吉が立ち上がった。