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□ムクツナルート
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 傷口を濡れタオル拭いても、骸は痛がる様子もなかった。
「マフィアとの抗争?」
「急いで帰らねばと焦った所為で少ししくじりましてね。標的のマフィアは完膚なきまでに潰してやりましたが」
「……おまえらしいよ」
 急いで帰ってきた所為で、オレは首を絞められたあげく四肢切断という恐怖に見舞われそうになった訳だ。複雑だ。
「もう随分マフィアはいなくなったってのに、おまえはまだ止まらないんだな」
「勿論ですよ。確実に、根絶するまで」
「もう死んでるオレが口出しできることじゃないけどさ、ほどほどにな」
「……心配せずとも、君の子孫には直接手を出しませんよ」
 直接って。間接的に色々しまくってたくせに。
「そっちの心配じゃなくて、おまえの心配だよ」
 赤く滲んだタオルを放り出して、清潔な濡れタオルを今度は横になっている骸の額に乗せた。手がこんななので、タオルは骸に絞って貰った。
「ちゃんとおでこ冷えてる? 氷枕もないしなぁ……、あ。腕枕とかどう?」
 冗談で肘まで凍った腕をぷらぷらしてみた。骸は眉根を寄せて顔を顰めたものの、嫌とは言わなかった。
「……え? いや、頭浮かせなくていいから、っておい、マジに受け取らなくて良いから!」
「君が言い出したんでしょうが」
 とんとん、と骸が指でベッドを叩く。寝ろってか。そこに寝ろってか。
「い、いや……じゃあ手だけ、はい」
 腕を伸ばして、凍った手の平部分を枕に載せる。骸は有無を言わさずがっしりと腕を掴んで、また引っ張った。
「うわっ」
 身体が横転して、布団の中に引きずり込まれた。
「吃驚、した。おまえ、いっつも強引なんだから」
「腕枕してくれるんでしょう?」
 凍った前腕部分に、当然、とでも言いたそうな態度で頭を乗せてくる。別に、言い出しっぺはオレなんだから良いけど。
 普段なら血管を圧迫してるだろうけど、凍ってるから痛くも重くもなかった。
「冷たい? タオルでも敷いた方が」
「このままで」
 溶けない氷にずっと触れているのは、冷たさを通り越して痛いだろうに。腕にこめかみをすりつけて来られると、手を引くのも悪い気がしてできなかった。
「寝てていいよ」
 さっきから瞬きをする間隔からして、眠い筈だ。発熱してると眠くなるのはオレも分かる。だけど骸は目蓋を閉じなかった。
「眠いだろ?」
 反応なし。肩を竦める気持ちで、息を零した。
「起きるまで、どこも行かないから」
 な、と笑いかける。骸は不信そうに眉をしかめたけど、諦めたように目を伏せてくれた。
 数分も経たぬ内に、寝息が聞こえた。





   

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