やくざと
□語
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隣りで片倉さんの規則正しい寝息が聞こえる。いやいやおかしいだろ。なんで私が眠れなくて片倉さんが眠れてるんだ。普通逆だろ。というかやっぱり片倉さん私のことよっぽどどうでもいいんだな。同じ布団に寝てるのに一ミリも緊張せずにスヤスヤ寝てるくらいだもんな。くっそぉ、なんで私だけドキドキして眠れなくならなきゃいけないんだ。馬鹿馬鹿しい。さっさと寝よう。
「……………眠れん。片倉さーん、寝てるんですかー?寝てますよねー、知ってます。」
って、なんで私はこの状況で独り言なんて言ってんだ。ますます馬鹿馬鹿しいじゃないか。しかも虚しいし。
「あっ、どうしよう。ここってお化け出たりとかないよね?いや、ないないこんな綺麗なマンションで。いやいや、でも初めて来る場所だし出ない保証は…どどどうしよう。」
「ぶっ。」
…………へ?
「安心しろ。五年ほど住んでるがオレは一度も見たことない。」
バッと片倉さんの方を向くと片倉さんはクルンとこちらに寝返りをうっていた。すごく可笑しそうに笑っている。というか…
「お、起きてたんですか!?」
おいおいまじかよ。一体いつから?あのクソ恥ずかしい独り言から起きてたんじゃないだろうな。ほんと勘弁してほしいわ。
「なんとなく眠れなくてな。」
片倉さんは微笑んでこちらを見ている。さっきの可笑しそうな笑顔じゃなくて優しい感じだ。
「ホットミルクとか飲みますか?」
飲むと眠れるよね。いや、やったことないけど。そんな私の目一杯の気遣いは一瞬で無駄になる。
「牛乳切らしてる。」
「そ、そうですか。」
じゃあ、もうベッドで大人しく睡魔さんがいらっしゃるのを待つしかないと。
「今日は話でもするか。」
「へ?」
い、今なんて言った?片倉さん今なんて?なんだなんだ。私の耳が変なのか?焦りまくった私はとりあえず首を傾げて言葉の意味が分からないとアピールしてみる。その甲斐あってか片倉さんはフッと微笑んで言った。
「お前は昼も寝ていたんだ。別に夜眠れなくても仕事できるだろ。」
なんだ?つまり今夜は語り明かそうって意味なのだろうか。そりゃ私は十分睡眠取ったけど片倉さんは多分ずっと起きて仕事してたよな。
「でも、片倉さんは寝なくて平気なんですか?」
おそるおそる聞いてみる。そもそも明け方に私を見つけたのも片倉さんだったじゃないか。夜中に会社出たときも一緒だったし…ま、まさかとは思うが片倉さん昨日も寝てないんじゃなかろうか。
「オレは徹夜で仕事することも珍しくないからな。」
いや、その前になんで片倉さんは昨日というか今朝私のいる場所がわかったんだろうか。浚われたとき目撃者がいたようには思えないし一体どんな風に見つけたんだろう。今更ながらすっごい気になってきたぞ。私はおそるおそる片倉さんに聞いてみた。
「昨日は送れなかったからな。会社から麻木の家まで一時間はかからないだろう。それで十二時頃に一応麻木の家に連絡してみた。」
「あ、そしたら帰ってなかったから探してくれたんですか。」
なるほど。でも探して見つかるようなところだったのか。だってあそこがどこだかは知らないけど少なくとも家の近所じゃないし多分双竜の近所でもなかったよなあ。
「今お前は襲われなければならないほどの案件は扱ってないからな。麻木が狙われるなら葉山の親父が関わっている可能性が高い。調べたら質の悪い業者から金を借りていた。で、その業者の持ってる倉庫やらの中で麻木が監禁されていそうなのはあの場所含め三か所しかなかったわけだ。」
照彦さんって自分の情報隠すの上手いから大変なのに調べてくれたんだ。というかその前に心配して私の家に電話までくれて…なんか子供扱いされてる気がしなくもないけど心配してもらえてたのはすごい嬉しい。
「そ、そんな手間のかかること…ありがとうございます。」
「いや。やはり送るべきだった。悪かったな。怖い思いをさせた。」
片倉さんが目を伏せて言う。すごく申し訳なさそうな声色で話され、私が逆に申し訳なくなった。
「え、いやそんな。あんなの私が勝手に逃げちゃっただけじゃないですか。すいません。片倉さんに迷惑かけてしまって。大人しく送ってもらえばよかったです。」
「ははっ。今度からはそうしろ。遠慮のいる仲でもないだろう。」
え、遠慮はいる仲なんじゃないか。なんだ、片倉さんの中では私たちはすでに仲良しってことになってるんだろうか。まさか。全然仲良くされた記憶がないぞ。
「いいんですか。遠慮しないで。」
ビビりながらもなんとか聞いてみる。片倉さんはきょとんとした顔をして私を見た。なんだなんだ。私なんか変な質問したか。考えてみるが別に普通だよなあ。
「政宗様も含めオレたちはビジネスパートナーみたいなもんだからな。遠慮なんてない方がいい。」
ゴロリと寝返りを打ちながら片倉さんは言った。なるほど。言われてみれば私も経営者みたいなことさせられてるもんな。納得した私が相槌を打つと片倉さんはおもむろに身体を起こした。
「どうせ起きてるなら何か適当に夜食でも作るか。」
「あ、手伝います。」
私はピョコンとベッドから抜け出しキッチンに向かった。