私に見える彼の傷
□夏休みの終わり
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あー、始業式とはなぜこんなにもダルいのか。寝ていいか。いいよな。夏休み明けなんだから仕方ないだろう先生もわかってくれるだろう校長は空気読んで話簡潔だけど生活指導の先生の話が長いってどおよてめえは校長の気遣い無駄に出来る立場かこのやろお。
まあ、何が言いたいかというと私は始業式でゆっくりと睡眠をとったということだよ。だから重大な情報を丸々聞き逃したと。
○ ●
ってなわけで、始業式は無事終わり10:30現在、担任を待ちながら私はお弁当を開き始める。え?昼には早い?いやいや、そりゃ早いけど、部活一時からで直前に食べると気持ち悪くなるかんね。
ガラリ
教室のドアが開いて担任が入ってきたようだけど無視。いや、別に私は特に反抗的な生徒というわけではない。ただ本能のままに生きているだけで。というか、この中に担任が教室入ってきたからといって顔を上げる生徒が何人いるか疑問だ。
そんなこんなで結局お弁当を食べ続ける私。おいしいなあ。部活楽しみだなあ。HR短いといいなあ。
「おい、みり!久々の再会だってのに、無視はねぇだろ。」
突然、私の名を呼ぶ妙にいい声。なんだなんだと顔を上げる。
誰だ?と、教卓の脇に立つ男を見た私はまずそう思った。こんなやつうちのクラスにいないよなあ。うん、いない。え、じゃあなんでここにいるんだ。しかもHR中に堂々と。
「転校生だよ。」
と、仲のいい女の子が教えてくれる。始業式でも紹介されてたじゃん、と。は、転校生だと。じゃあ初対面じゃないか。それとも、この驚くほどの男前と私は以前会ったことがあるのだろうか。いや、会ったら忘れないだろこの美貌は。
そのとき、ふと思い出す小さい頃の思い出。雪の中元気に遊ぶ少年と少女。可愛らしい顔立ちの少年が、少女…つまり過去の私に笑いかける。
「梵!!」
思わず立ち上がる。教壇の上に立つ転校生、梵に駆け寄った私は感動のあまりペラペラと喋り出す。
「梵だよね!久しぶり。私のこと覚えてたんだねえ。最後に会ったの5歳くらいだったのによくわかったね。」
「Ah?そっちこそ。」
梵は妙に色っぽく笑む。さっきから、声やら仕草やら全部色っぽいから、これは彼の初期装備なんじゃないかと思う。いやあ、十年以上会ってないからなあ。すごい変わりようだな、おい。
「私はね、片倉さんがたまに会いに来てくれて、梵のこと教えてくれたから。梵って本当は梵って名前じゃないんだよね。知らなかった。12歳のとき片倉さんが会いに来てくれて、そのとき初めて知ったの。小さかったから梵のことなんも知らなかったんだよね。片倉さんとも話したことなかったし、でもいつも梵のそばにいたから私、梵のお兄ちゃんだと思ってた。だからね、初めて会いに来てくれたとき、『梵のお兄ちゃん』って叫んじゃったの。あのときの片倉さんの顔、梵にも見せてあげたかったなあ。」
ペラペラペラペラ約200文字ほどのセリフを一気に言い終わると、梵は心底楽しそうに笑ってくれた。
「小十郎が驚くなんざめったにねぇからな。」
「うん!見たいでしょ。今度会ったときもう一回言ってみようか。」
「O.K.オレがいるときに言えよ?」
「うん!当然じゃんね。楽しみ。」
あはははは!!と私たちは片倉さんの驚き顔を想像して、腹を抱えて笑った。
「お二人さん、HR中だから席戻ろうね。」
今まで黙っていた担任が私たちを宥める。もしかしたら突然意気投合した私たちにどん引きして声をかけ忘れてたのかもしれない。
私は、はあい!と元気よく席に戻り、梵は自分の席がどこか聞いてから、廊下側の一番後ろの席についた。
いやあ、それにしても久しぶりだな。というか、右目はどうしたんだろ。なんで眼帯?転校初日にものもらいか?それとも怪我かな?どっちにしろ不運な…。あとで聞いてみるか。
というか、あの可愛かった梵がなあ。片倉さんから色々聞いてはいたけど、目つき悪くなってるわ、色っぽくなってるわ、美人さんになってるわ…。もはや別人。
まあ、そんなこんなで始業式でも紹介されていたはずの梵を全く認識していなかった私は、突然の再会にビビったりしたわけだ。
「そういや、みりは部活入ってんのか?」
「ああ。まあ、入ってるけど。梵は?なんか入るの?」
HRは十一時半には終わり十二時現在、私は梵と雑談してる。ついでに言うと梵は一瞬にしてクラスの男子どもと打ち解けていた。なんつうコミュニケーション能力だ。三十分で二十人程の男子全員と仲良くなっちゃうとは、恐るべし。
「Ah?……まあ、オレは忙しいからな。」
あ、そうだった。今、梵は東北地方全域を占めるヤクザの組長やってるんだった。にしても、なんで急に東京に?本家の方は大丈夫なのかな。私も片倉さんの話の端から想像してるだけだけど、梵は自分以外の本家の人間…つまり、梵の家族とはそんなに仲良くやれていないようだったけど。まあ私の読み違いかもしれないけどね。
「前もやってなかったの?」
「あぁ。忙しかったからな。」
ふぅん。右目の眼帯の理由とか東京に来た理由とか、その他諸々聞きたいことはあるけど…なんか疲れてるっぽいから今日はやめておこう。
「あー、そろそろ部活行かないと。また明日ね、梵。」
部活の友達が教室のドアのところで手を振りながら待っていた。多分一緒に行こうって意味だよな。私は手早く荷物をまとめ彼女のところへ駆け寄った。
「………………あぁ。」
梵が私の去り際に曖昧に相槌を打ったのが聞こえた。
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