婚約者

□お祭り
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こうして、なんとか二人とも浴衣姿でお祭りをやっている神社までたどり着いた。着いてすぐ、私は綿あめを探し始める。とにかく綿あめを食べなければお祭りは始まらないのだ。わたし的には。

「どれがよい。」

綿あめ屋の前で松寿が財布を出しながら言う。私はどれにしようか考えながら、何も言わなくても綿あめ屋の前で立ち止まってくれる松寿に少し感動していた。やっぱり優しいよなあ、松寿は。

「あ、これがいい。」

私は今流行りのゆるキャラの袋を選ぶ。可愛いし、ちっちゃい子が見るアニメのやつはちょっと恥ずかしいしね。私は綿あめをパクパク食べながら次のターゲットを探す。水風船でも釣るかなー。ポンポンしながら歩くの楽しそう。お祭りっぽい。

「松寿!あれ、やる!」

マイペースにお祭りを回る私に松寿は黙ってついてきてくれた。今日は家族サービスデー的な感じかな?まあ、そんなこんなで水風船を手に入れた私はじゃがバターと焼き鳥と大判焼きを手に入れて満足して神社の近くの公園のベンチに座った。隣りに座った松寿は少し疲れたように見えた。

「ごめんね、せっかくお休みの日なのに。」

ベンチに深く腰掛けて目を伏せている松寿を見て、申し訳なく思っ
た私は謝った。でも松寿はチラリと私を見ただけで、何も言わずに買ってきたじゃがバターを食べ始めた。

「悪くない。」

呟くように松寿は言った。うん、じゃがバター美味しいよね。私も食べよ。

「美味しいね!やっぱり、お祭りで食べると違うなー。」

私がのんびりと口に出すと、松寿は少し驚いたようにこちらを見た。なんだろう。松寿の美しい切れ長の目が丸に近いような形になるのは珍しくて、私はじゃがバターを食べながらじっと目を合わせていた。じゃがバターを食べ終わり、焼き鳥に取り掛かったところで松寿はようやく私から目をそらし、自分のじゃがバターを口にした。私はそのときになってようやく自分が松寿と見つめ合っていたことに気づいて少し動揺したわけだけど、松寿の次の発言にますます動揺することになる。

「そういう意味ではない。」

え?何が?何の話だ?そういう意味ってどういう意味?動揺しまくった私は取り敢えず焼き鳥
頬張ってお茶を濁しつつ松寿を見た。松寿もこちらをじっと見ていた。

「な、何が?」

謎の緊張感に包まれながら私は恐る恐る聞いてみた。松寿はまた少し驚いたような顔をすると、すぐにいつも通りの表情に戻り説明してくれた。

「悪くないと言ったことだ。」

「あぁ、じゃがバターの!」

合点がいったというように私が手を合わせると、松寿は信じられないとでもいうように眉をしかめた。それから深くため息をついた。

「じゃがバターじゃない。祭りのことだ。たまには休日に出掛けてやってもよい。」



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