婚約者

□お祭り
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明日、家の近所で夏祭りが行われる。神社の由緒正しき感じの夏祭り。きっと楽しいよ。そう言ったところで松寿が一緒に来てくれるわけない。けど、なんとなく口にしてみた。

「久しぶりに綿あめ食べたいな。すくえないけど金魚すくいもいいよねー。」

少し間延びしたような声で言ってみる。金曜日の車内には微妙な空気が広がった。だよね。変なこと言ってごめんなさい。だって、最近松寿の仕事が一段落したみたいで、少し構ってくれるようになったから。だから、もしかしたら小学校低学年のとき以来初、松寿とお祭り計画☆も夢じゃないかも!とか、思ってしまったのだ。でも、そうだよね。ごめんなさい調子乗りました。

「行きたいのか?」

松寿が興味なさげに呟く。完全に無視される体でいた私はバッと松寿の方を見る。松寿は呆れたようにこちらを見ていた。でも、今の「行きたいのか」は「連れてってやってもいい」の行きたいのかだった。

「行きたい!」

私は思い切りよく答えた。松寿は少し馬鹿にしたように鼻で笑ったけど、表情は心なしか優しかった。こうして晴れて私はお祭りを楽しむことになったのである。やったぜ、待ってろ大判焼きに綿あめに林檎飴、あと忘れちゃいけない
のがじゃがバターよね。













● ○












土曜日。浴衣の着付けが出来ないことに気付いた私は若干涙目になりながら松寿に縋り付いた。ちなみに松寿は既に完璧に浴衣を身につけている。女子力…。

「着付けてよー。」

情けない声で頼み込むが松寿は素知らぬ顔であらぬ方向を見ている。くっそぉ、少しは助けてくれてもいいじゃないか。何度頼んでも松寿は頷くどころかこちらを見てすらくれない。

「お願いします松寿様。」

中途半端に浴衣を羽織り私はジタバタしてみせる。かなり見苦しい、多分。けど、身体はちゃんと隠してるんだし、別に着付けてくれたっていいじゃないか。私だって微妙に恥ずかしいとは思ってるよ。でもせっかくのお祭りなんだから浴衣を着たいという子供心を満たしてくれるのが大人の男ってものだ。

「わかった。じゃあ下にキャミソールと短パン着るよ。だから、浴衣着せて。」

言い捨てると私はタッタカ2階に上がりキャミソールとパンツ見えないように使う黒パンを身につけた。その上に浴衣を羽織り松寿の下に戻る。松寿は下りてきた私を見るとそりゃもう深ーい溜息をついて手招きしてくれた。私はしっぽを振り出
さんばかりに喜んで松寿の前に立つ。

「わーい。」

わざとらしく言いながら私は大人しくして松寿に浴衣を着せてもらった。すごい手際のよさに感動しながら。よし、これで浴衣で綿あめ食べられる。楽しみ!
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