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□第二章
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瀬戸凛也…つまり凛ちゃんはいつもどおり俺様・大将・旦那以外がいるときは顔の鼻から下の部分を布で覆っている。胸にはさらしを巻いてふくらみを隠し、胸当てもつけていて、上着は旦那のを長くしたようなもの。下は竜の旦那がつけてるようなやつ。つーか、上着が旦那とおそろいってことは当然おなか見えてるんだよね。いいのかな?

凛ちゃんは小柄だから十二の少年ってことにして、声の高さとかはごまかしてる。一応、今のところは誰も怪しんでいないみたいだ。ま、それも凛ちゃんの強さゆえなのかもねー。

にしても、凛ちゃんってばたった数日で兵と打ち解けちゃってさー。小ざっぱりした性格だから、人に好かれやすいのかもね。その上、剣の稽古じゃほぼ無敵。…ってか、旦那と互角だし、みんなから一目置かれる存在になっちゃったんだよね。

でも、いつまでも楽しくってわけにはいかないよ、凛ちゃん?今日はこれから、俺様とつらーいつらーい“アレ”の時間。

「やっほー、凛ちゃん。」

剣術稽古の後、兵と楽しげに話す凛ちゃんに声をかけたらあからさまにいやな顔された。

「佐助…。その呼び方、いい加減やめろ。」

あきれたような声を出す凛ちゃんに、俺様は満面の笑みで無理☆と答えてやった。

それから凛ちゃんを理由も言わずに引っ張る。腕をいきなり引かれ不服そうにしながらも、凛ちゃんはたいした抵抗もせずついてくる。それどころか、しばらくしたらごく普通に俺様に話しかけだした。いや、別に俺様もさー、凛ちゃんをひどい目にあわせようとして腕引いてるわけじゃないんだけどねー。そうは言っても少しは警戒しようよ。まあ、凛ちゃんは強いからちょっとくらい警戒心薄くても平気か。そう思って俺様は彼女の言葉に耳を傾ける。

「ここの兵たちはみないい人だね。新参者の私をためらいなく快活に受け入れてくれた。寝るとき以外、私は一人になることがないくらいだ。みな、楽しい話をしてくれるし、私の話もよく聞いてくれる。この厳しい戦国の世にありながら、こんなに暖かい心を持っていられるなんて…そんな甲斐の兵たちが私は好きだよ。」

そんなことを楽しそうに話しながら、凛ちゃんはいつの間にか俺様の隣を歩いていた。あっれー?さっきまで俺様に手を引かれて、後ろをついてきてたんだけどなー。まあ、いっか。ようやく目的地にもついたし、早速本題入っちゃうよー。

「はい、着いたよー凛ちゃん。入って入ってー。」

「…いや、え?ここ、私の部屋だけど。」

我が物顔で招くな、なんてぼやきながらも凛ちゃんは部屋に入る。あーあ、本当に素直なんだから。別にいいんだけどねえ。

「と、いうわけで…第一回戦国勉強会(俺様流)始めるよー。」

机をはさんで俺様の向かいに座った凛ちゃんがキョトンとする。

「凛ちゃんってさー、大将のこと知らなかったくらいだから武将とか全然わかんないっしょー?とりあえず主なのだけ何人か覚えようね。」

「それ…必要なの?」

「必要だよー。んじゃ、北の方からね。」

俺様は懐から日の本の地図を取り出して奥州を指差す。

「ここ奥州ね。伊達政宗ってのが治めてて、独眼竜って呼ばれてんの。竜の旦那は右目に眼帯してるからすぐわかるよ。あと剣六本持ってるのも特徴かなあ。で、次は…越後でいっか。」

俺様の説明にポカンとしていた凛ちゃんだったが覚醒したのか慌てた様子で口を挟む。

「ちょっ、待った。一気には覚えらんないから今日は地名と名前だけで…。」

「もー、しょうがないなぁ。じゃ、行くよ?奥州・伊達政宗。越後・上杉謙信……。」
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