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□第七章
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違和感の謎が解けたのは突然だった。目が覚めたら見知らぬ部屋に寝ていて、襖にもたれて眠っている瀬戸凛也がいたのだ。その寝顔を見て自然に浮かんだ感想は、女のようだ、というものだった。その感想が浮かんだ瞬間全てが雷に撃たれたかのように一瞬で繋がった。オレは瀬戸に近付き、彼女が目覚めると女であることを確かめた。具体的には着物を剥いだわけだが。
「まあ、イイ女…だよな。」
今思えば一目惚れみたいなものだった気がする。初めて会ったあのときに、アイツに惹かれたからこそ違和感を覚えたのだろう。瀬戸が少年として通っていることに。しかし、惹かれた理由はなんなのだろうか。今まで女に対してこんな感情を抱いたことなどないからよくわからない。端的に言えばアイツが…凛が、欲しい。凛の何がと問われればよくわからないが。とにかく凛のすべてを手に入れたい。だから、女だと確信を持った瞬間に思わずあんなことを言ってしまったのだ。
「まあ…今はそんな場合じゃねぇけどなあ。」
怪我が落ち着いたら身体を動かしたい。動けないからこんなことを考えてしまうのだ。少しいらつきながらもオレはいつのまにか微睡みの中に潜っていた。
○ ●
ある日、廊下を歩いていたら中庭で稽古をしている男が見えた。ああ、私も稽古したいなあ。でも最近はずっとお館様の娘として女の着物を着ているからなあ。………ん?
「ま、政宗、様??」
女の姿なので誰かに見とがめられないようにここのところ女らしく呼び方を変えている。独眼竜の前だとなんとなく気まずいが。いや、そんなことはどうでもいいのだ。なんで独眼竜が稽古?怪我はどうしたんだ?しかも私が声をかけたにも関わらずまるっと無視して未だに稽古を続けている。信じられん。
「政宗様!お怪我はまだ治っていないのでしょう?」
さっきのは聞こえていなかったのかと思い、私は少し大きな声を出してみた。するとようやく気がついたのか、独眼竜がピタリと動きを止めた。
「凛、か。」
「お身体に障ります。まだ安静に…。」
「もう治った。」
なんてサラリと嘘を言うのだこの人は。まあ独眼竜にしてみれば動かずにいるのも限界なのだろう。自分も状況が似ているため嫌でも気持ちがわかってしまう。
「でも…。」
「アンタも付き合え。」
「え?」
なんだと?まさか私に言っているのか?確かに今日は袴姿だけど。でも、こんな華やかな袴汚すわけにはいかないし。そんなことを思っているうちに何故だか独眼竜に木刀渡されてるし。どうしよう。
「よいではないか。凛よ、独眼竜に稽古してもらうのじゃ。」
突然の声に振り向く。そこにいたのは他でもないお館様だった。なぜここに?いや、それ以前に稽古しろって?
「お館様、でも着物が。」
反論しようとするがそのまま背を押され履き物を履かされる。本当に稽古していいのだろうか。だって、この袴、きっと高い。私は恐る恐る後ろを振りかえる。しかしお館様は私と独眼竜をじっと見守っているだけだった。どうやら腹をくくらなければならないらしい。
「あ、の…。お願い、します。」
自然体で構えている独眼竜の数メートル手前に立って私もピタリと構えをとる。独眼竜はニヤリと笑っていた。
「行くぜ?」
「はい!」