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□第八章
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軍議の場でわかったこと。織田はおそらく東国連合をまとめて潰す心積もりなのだろうということ。いま、徳川も上杉も討ち死にしてでも主君の仇を取り戦うことを望んでいる。その兵たちを纏めさせるために独眼竜を暗殺対象から外したのだろう。そして今、独眼竜は自軍を解散させ単身信長を討つべく館を出た。幸村はお館様の側で微動だにしない。心配なのだろう。けれど、行かせるべきだ。ここで殺されるのを待っていることなんて、そんなことを日本一の兵とまで言われる幸村にさせられない。

「幸村。お館様のことは私が側にいよう。私が、ここにいる。それではまだ心配か?私を、信用できないか?」

こんな聞き方は卑怯だと思った。心配してはいけないような聞き方をしている。幸村がどう言い訳しようとも、ここに残ることは私を信用していないという意味になってしまうような聞き方。そして、それを察するほど幸村が歪んでいないことを知りながら私はこんな聞き方をした。

「行って、きまする。」

幸村が立ち上がる。その目を、私は覗き込んだ。目が合う。瞬間、私はピシリと固まった。こんなに、強い目をするものだろうか。心酔していたお館様がこんな状態だというのに。

「凛殿。感謝致す。」

幸村は振り返らなかった。こちらに心を残す気配すらなく、馬の方に向かって歩いていく。私はその姿が見えなくなるまで見送ってからお館様に視線を戻した。私も、行かなければ。ここでこうしてお館様のそばにいるのは死ぬのを待っているだけの逃げだ。行かなくちゃ。行かなくちゃいけないけれど、幸村に言ってしまった言葉が私を縛る。しばらく葛藤の中でグルグルと回りながら私は周囲が見えなくなっていたらしい。

「?」

外が、騒がしい。そう思った。気がつくとこの部屋にはお館様と私しかいなかった。他はどこに行ったのだろう。勘だったけれど、私は鎧を取りに行った。

「政宗様は、再結成するなとはおっしゃっていない。」

外に出ると右目の声が聞こえた。そして、右目の前にあるのは、上杉、徳川の軍だ。武田、伊達の軍とともに信長の居城を攻める気なのか。私は馬を引き右目の後ろに着いた。

「右目!私も、出る。」

「瀬戸か。来い。」
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