ボーダーライン

□第九章
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独眼竜に対する気持ち。現代にいる恋人への気持ち。元の世界に戻れるのか。戻れるとして、二度とこちらに来ることができなくなるのだとしたら、私はどちらの世界を選ぶのだろう。そして、戻れないとするならば、私はこの世界でどのように生きていくのか。

全ての可能性を視野に入れて、選択をするときが私には来ている。そのきっかけとなってくれたのは独眼竜。お館様も十分に回復していて今日にでも結論を出さなければならなくなるのだろう。

「凛ちゃん、今平気ー?」

「佐助?平気だけど、どうした?」

「じゃあ、これ着てお館様の部屋ね。」

佐助は私の部屋に綺麗な着物を放り込むと私が何かを聞く前にさっさと姿を消した。でも、聞くまでもない。来るべきときが来ただけだ。何を話すべきか。頭の中がまとまらないまま私は着替えてお館様の部屋の前まで来ていた。私は正座をして、中に声を掛けた。

「お館様。凛でございます。」

入れ、と返事が聞こえ、私はゆっくりと部屋に入った。部屋にいるのはお館様と独眼竜。佐助は呼びに来てくれただけで、話を聞くわけではないらしい。いや、忍なのだから天井裏か何処かから見ている可能性もないわけではないが、お館様の配慮でこの場にいるのが三人なのだと考えれば佐助も盗み聞きしようなどとは思わないだろう。

「凛よ。」

厳かにお館様が口を開く。その雰囲気に飲まれそうになりながら私は出来る限りしっかりと返事をした。

「はい。」

お館様は一呼吸分ほど間を置いた。それから、真剣な眼差しで私をじっと見つめる。私はその視線を受け止め、姿勢を正した。

「独眼竜から凛を嫁にとの申し出を受けておる。」

「はい。」

「お前の想いを聞きたい。」

私は少し考えた。心は決まっている。けれど、言葉を選びたかった。

「私は、政宗様を好いております。」

二人の視線が私に注がれているのを感じながら私はさらに言葉を紡いだ。

「私には元いた世界に恋人がおりました。それでも、もし今そこに戻れたとしても、私は政宗様を選びます。」

「いいのか?」

独眼竜が問いかけてくる。私は小さく頷いた。

「お館様のお許しがいただけるのでしたら、私は、たとえ元いた世界に戻れたとしても奥州に嫁ぎたいと、そう思っています。」

私の言葉を聞き、お館様は目を閉じた。そして、しばらく何かをかみ締めるような表情をした後、再び私に視線を戻した。

「凛よ。わしは、わしの娘として、凛が嫁ぐことを望んでおる。」

私はうなずいた。本当は嬉しさのあまり何か言いたかったが、お館様がすぐに独眼竜に目を移したことから考えても、同盟の可否について独眼竜に問うているのだということがわかったから黙ったまま。

「All right!こっちも凛だけもらって後は知らねぇなんて勝手なこと思っちゃいねぇ。凛の親はオレの親だしな。」

独眼竜はニッと笑うと、私の方に視線を移した。それから、真剣な表情に変わり口を開く。

「凛。必ず幸せにする。アンタを、天下人の妻にしてやる。奥州に来い。」

「はい。微力ながら私もお手伝いいたします。」

私は微笑んでみせた。独眼竜も笑う。

「微力じゃねぇだろ!」

お館様も一緒になって三人で笑いあい、婚儀についての話し合いも大方まとまった。同盟については、細かい部分の調整もあるのでこの場でというわけにはいかないけれど、お互い早急に話をまとめようということで今日は終わった。

「では、失礼いたします。」

私たちはお館様に頭を下げた。そして、部屋を出ようとした瞬間、めまいを感じ私は意識を失った。直前に、独眼竜とお館様が私の名を叫ぶ声を聞いた気がした。
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