短編

□拍手ログ
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政宗のお家なう。でっかい平屋建てなう。

ピンポーン

「片倉さん、私です!」

って言うとしばらくして片倉さんが玄関からひょっこり顔を出す。ちなみに玄関は門から50mほど離れてる。

「よく来たな、お嬢。」

なぜにお嬢。まあいいんだけどね。でもたまに極道のノリについていけないんだよね。

「いやあ、ちょいと政宗をからかいすぎちゃって…。」

なははと軽く笑ってみせる。つぅか、16にもなってあの程度の下ネタに逃げ出すってどーよ。大体逃げた方が気まずいじゃんか。私が。

「何言ったんだ?」

「ぅえ?あ、いやあー。ははは。」

言えるわけないじゃないか。私をあげるとか言っちゃったなんて片倉さんには言えないわ恥ずかしすぎる。

「オレに言えねぇってことは、あんまり上品なからかい方じゃねぇってことだな。」

片倉さんはサラリと笑う。いや、丸バレじゃないか私。まじかよ。こうなったら打ち明けるか?打ち明けちゃうか?

「…あー、何言っても無視するからついさー、私をあげるって言っちゃったんですよねー。はは、ちょっと言い過ぎましたよね。エロ本ぐらいで政宗が反応してくれればよかったんですけど。」

あえて自分の非は認めない、私×○ック。なんて某ファストフード店のバイト募集の文句が浮かんでしまった。

「そいつは…ちょっとまずいかもな。お嬢、とりあえず政宗様の部屋で待ってな。茶菓子でも持って行く。」

「えー、片倉さんの手作りなら食べたいけど最近体重がなあ。」

「そうか?一応オレの作ったアップルパイがあるんだが、そういうことなら余ったりんごむくか。」

なんですって。か、片倉さんのアップルパイ。まじうまいんだよなあ。いや、片倉さんの料理はなんでもうまいんだけどさ。

「いや、アップルパイ、食べたい、です、ね。」

「いいのか?体重の方は。」

「う、いいんです。おっぱいも成長したからそのせいにしとくんで。」

完璧現実逃避だけどね。ははは。まあ少しくらい太ってもね。ほら、暴飲暴食が許されるのって若いときだけだし。

「言われてみりゃお嬢も色気出てきたんじゃねぇか。」

廊下の方に私を追いやりながら片倉さんが爽やかに言う。さすがすぎる。下ネタをこんな爽やかにかつ渋く言えるのなんて世界で片倉さん一人なんじゃないか。




○ ●




「政宗様。高校お疲れ様でした。アップルパイが焼けておりますので部屋までお持ちします。」

「Ah?わかった。」

どうも小十郎がにやけてる気がするが、今はそれどころじゃねぇ。熱冷ましに少しそこらを歩いてきたってのにまだアイツの表情が頭に浮かぶ。私をあげるというあのセリフも共に蘇るもんだからたちが悪い。

「じゃあ、部屋行ってる。」

心ここにあらずの状態で呟くように言うとオレは部屋までの長い廊下をのろのろと歩き出した。あー、全くあの女は一体何を考えてやがるんだ。いちいち人に際どいこと言いやがって。いや、際どいこと言ったのは今日だけだが。とにかく、何かとオレに構いまくると思えば女友達やらクラスメートの男やら誰彼構わず笑顔で話しかける。んなことするならオレに構うなと言ってやりたい。何しろオレはヤクザ一家の長で堅気にとっちゃ危険極まりない存在なのだ。

「そもそも高校通ってんのだってあいつが強引に…。」

思わず愚痴がこぼれるが、またさっきのあいつの声が蘇り口を噤まざるを得ない。いや、本当はわかってる。高校に通うのはオレがあいつのそばを離れたくないからだ。

ガラッ

自分の部屋の障子を開けた瞬間オレは度肝を抜かれた。な、な、な、なんで…

「なんでここに…。」

「は?片倉さん何も言わなかった?ま、いいや。お邪魔してるよー。」

ちゃぶ台の上のアップルパイをほおばりながら彼女は呑気に言った。な、なんだこいつは。ヤクザの組長の部屋で何呑気にアップルパイ食ってんだよ。

「何しに来たんだ?まさか本気でオレに自分をやりにきたんじゃねぇだろうな。」

「んなわけないじゃん。やだなー政宗ったら。」

「だろうな。つーか頼まれてもいらねぇしな。」

「あ、そ。だからいつまでも彼女ができないんだよ。」

こいつは本当に…彼女が出来ないのはオレにその気がないからで、実際オレのモテ具合は半端ねぇぞ。大体あんたこそ彼氏いねえじゃねぇか。

「オレは堅気には興味ねぇんだよ。」

何を言ってもこいつに気があることがバレる気がしてつい嘘を吐く。彼女は全く意に介さず言い返した。

「でも堅気の学校通ってんじゃん。」

「あんたが寂しがるだろう?」

「よく言うよ。私のこと無視しまくってるくせに。」

アップルパイにがぶりと噛みつきながら彼女はすねて見せた。そうか。こいつはこいつなりにオレとの関係を心配してんだな。無視されれば傷つくし理由が知りたくなったりもするんだろう。

「あー、悪かったな。」

パッと彼女の視線がオレに戻る。華のような笑顔。喜んでいるときの顔だ。

「ね、なんで避けてたの?別に怒らせるようなことしてないじゃん。」

「あんたがオレのプリン喰うからだろ。」

ここで本音は言わない。彼女がオレ以外に構うのが気に入らないとは。この関係が心地いい。この関係でずっといたい。






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