マルと遊ぶよい?

□憧れ
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ザワザワと落ち着かない船内の空気を感じつつ、白ひげは口端を吊り上げた。
健康診断のために採血していくナースでさえ、どこか上の空である。
それもそのはず、今日は白ひげの誕生日。
毎年毎年、趣向をこらして祝ってくれる子どもたちは今頃、夜に行われるらしい宴の準備に忙しいらしい。
長い時間、医務室の小さな椅子に縛り付けられていた白ひげは、ぐっと伸びをしながら甲板へと出た。
凪いだ水面に沈みつつある太陽と、それを飲み込んで静けさに変えようとする海。
甲板の端に立ち、沈み行く光りを見ながら白ひげが一人ごちた。

「また年を取っちまったな……なァ、ロジャー、迎えはまだかい?」

遠く水平線にかつての戦友を思う。
(オレにはまだ、やらなきゃならねェことがあるってのか?)
飲み込んだ太陽を隠すように暗く染まる海を見ながら、白ひげが自問した瞬間、
「どーーーーーん!」
足もとにぶつかる小さな衝撃と高い声。
見下ろせば、遥か下にチロチロとゆれる黄色が見えた。
手を伸ばせば必死で捕まってくる小さな温もりを、そっと抱え上げた。

「なんだ、マルコ……なんか用か?」
「オヤジ!マルもオヤジのお祝いしたいよい!」
白ひげの手のひらの上で、バランスを保って立とうとするマルコ。
なかなか安定しないそこに諦めて、親指にしがみつきにっこりと笑った。

「あとで宴があるだろう、うめェモンいっぱい食えや」
「違うよい!マルはプゼレント、あげたいんだよい」

はい!と元気よく挙手をして、バランスを崩しまた慌てて指に捕まるマルコに、白ひげがグララと笑った。

「んなモンいらねぇ、おめェはただ笑ってればいい」
「そーはいかないんだよい!お誕生日はめでたいんだよーい」

今度は人差し指を立てて「めっ!」とウインクするマルコに、再び白ひげがグララと笑った。
「そうだなァ……じゃ、おめェにして欲しいことがある」

少し思案して告げたプレゼントに、小さなマルコが破顔した。


宴が始まり、いつもの定位置に座る白ひげに、代わる代わるプレゼントを持ってくる息子たち……だったのだが、今年はなんだか様子がおかしい。

大きな男どもが、少し離れた場所でモジモジと体をくねらせ、「お前が先に」「いやお前だろ?」などと譲り合っている姿は正直気持ち悪い。

ごったになった大男の群れの膝あたりから、小さなマルコが顔を出した。
テテテ……と軽く足音を響かせて、座っている白ひげの膝にちょこんと掛けた。
そして上を見上げてにっこりと笑む。

「おや、あ……間違った。えーっと……」

クルリと大きな目を上へと向けて少し思案したマルコは、ようやく先ほど白ひげがお願いしたプレゼントを思いだしたのか、にっこりと微笑んで言った。

「パパ!おたんじょうびおめでとよーい!」

きゃっきゃと笑い、白ひげによじ登り、その大きな頬にちゅっと口付けをするマルコ。
その小さな背に指を当て、喜んだ白ひげがまた大きくグラララララと笑った。


(えーっと、パパ?おめでとっ!)
(お前らには頼んでおらんわ!バカ息子ども!グララララ)


                      

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