それからU

□飲みすぎ注意
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グワングワンと脳の揺れる音が聞こえ、瞼を閉じていても視界が回る気配がする。

おまけに身体もだるくて、動かそうとすると吐き気までする。



「う・・・・。」


ベッドから半身を起き上がらせたものの、すぐにふらつく頭を手で押さえ突伏してしまう名無しさん。

やっと出した声も掠れて喉もカラカラだ。

チロリと視線を上げた船室の窓には朝陽の光が届いており、とっくに起床時間だということが感じ取れる。



(昨夜・・・飲みすぎた、のかな?)

重い瞼を微かに上げたり下ろしたりしながら、自分の身体を起こすタイミングを計っていた名無しさんに、面倒くさそうな声が降りかかる。



「だから言っただろい・・・バカ娘。」

呆れたように紡がれた言葉と一緒にうつ伏せている後頭部に置かれた大きな温かい手のひら。

くしゃりと一度髪を撫でつけ、そのまま頭を小刻みに揺らす。


「わ、やめて!マルコさんっ!」


掠れた小さな声をくぐもらせて懇願する名無しさんにクツクツと喉の奥で笑ったマルコは、反対の手に持っていたグラスをベッドサイドのテーブルにコトリと置いて名無しさんの枕の傍へと浅く腰掛けた。


「キッチンの連中には伝えておいた。今日はこのまま寝てろよい。」

「で、でも・・・あっ!」


急に起き上がろうとしたせいか、再び頭を押えて枕へと額を埋める名無しさんに、ため息交じりで諭すように口を開くマルコ。


「自分の限界っつうモン知れよい。ま、これで分かっただろい。」


自分のいない場所で飲みすぎた彼女に、やんわりと苦言を呈しながら、その長い指で名無しさんの肩を突き、仰向けになるように促したマルコは、そのまま彼女の背中に手を入れゆっくりと支え起こした。


「とりあえず水、飲んどけよい。あとでサッチに何か作らせるからよい。」


額に当てたままの名無しさんの手をやんわりと退けさせ、その手にグラスを持たせたマルコは、グラスを持った彼女の手の上から大きな手のひらで包み、それをゆっくり傾ける。

名無しさんの喉が水を嚥下するのを見届けたマルコは、またその軽く細い身をベッドへと凭せ、肌蹴ていた布団を胸まで引き上げた。


そのまま、その手を自分を見つめる名無しさんの頬に当てたマルコは、二日酔いの辛さからたまに寄る眉根に徐に口付けた。


「っ!・・・マルコさん。」

驚き目を見開く名無しさんの両手を、些か熱い片手で纏めて持つように固定し、頬に当てた手のひらを黒い髪のかかる首筋へとずらして行くマルコ。

「んっ・・・やっ!」

さらりと項付近の髪を梳く様に流し、さらに額、鼻先、頬へと啄ばむように口付ける。

ちゅっと態と音を鳴らすように降りてきた少し冷たいマルコの唇に、仄かな期待を募らせて目を閉じて待つ名無しさんに息のかかる距離から、クツリと短い笑いと共に甘い低い声が落ちる。


「オトコに介抱してもらう程飲みすぎちまう悪い子の唇には、やらねェよい。」


少し拗ねたような響きを持つマルコの声に、そういえば昨夜飲み過ぎてエースに運ばれたことを思い出した名無しさんは、開いた瞼と寄せた眉根で精一杯の謝罪を表現した。

彼女の潤んだ瞳と縋るような視線を受けて顔を逸らしたマルコは、手の甲で自身の仄かに赤くなった頬から口を押えながら、いまだ自分を見つめる名無しさんに向かって呟いた。


「名無しさん・・・オレ以外にあんまり無防備になってくれるなよい。」


言うや否や、先ほどの言葉とは裏腹に彼女の少し乾いた小さな唇をペロリと一舐めしたマルコは、体調の悪さを忘れて真っ赤に色づく名無しさんに口づけを落とした。



「酔うならオレにしとけよい。」











(おい!サッチ!!二日酔いに効くモン、何か作れよい!)

(おま、俺も二日酔いなんだけど・・・)

(知るかよい、動きゃァ治るよい!さっさと働け!)

(ひでェ・・・)
                                 

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