それからU
□サッチの苦難(前)
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「サッチ、何してんだ?」
昼下がりの食堂、空腹を我慢できずに訪れたエースがテーブルで何かを凝視してウンウンと唸るサッチに背後から声をかけた。
「んあ?・・・エースか。」
頬杖をついていた腕を軽く伸ばして、そのままエースに向かって手招きをするサッチ。
「まぁ、ここ座れよ。ん、なぁエース、これ何の実だと思う?」
「はっ?!」
静かに出されたサッチの声に慌ててその視線を追えば、眼前に置かれた黄土色の果実が目に入る。
「こ、これ!サッチ、お前・・・どこで?」
所々トゲに包まれた異形なそれを恐る恐る手に持って、隣のサッチを見やるエース。
「島で買出ししてたらよ、果物のごっちゃに置かれたワゴンがあってな・・・そこに一個だけ置いてあったんだよ。なぁ・・・悪魔の実、だよなぁ?」
「間違いねェだろ。こんな禍々しい果物、他にねェよ。」
手に持ったそれをそっと元に戻し、苦笑を零したエースは少し逡巡した後にサッチに向かいあう。
「食うの?サッチ。」
「・・・・・ん〜、美味いか?」
「まじィ。」
何かを思い出すように顔をこれでもかと歪めたエースに「ははっ」と乾いた笑いを漏らし、目の前の果物を凝視しなおしたサッチ。
そんなサッチを横目で見て、ぐるると鳴る腹に手を当てたエースが口を開く。
「いくらで買ったんだ?これ。」
「5万ベリー・・・・。」
「マジで?店のヤツ、知らなかったのかよ!」
すげーすげーと連発するエースに、ニヤリと笑んだサッチが歪めた口を開く。
「売るもよし、食うもよし!だな。今晩一晩考えるぜ!」
「強そうな実だな、これ・・・なぁなぁ、サッチィ。なんか作って?」
ニカリと笑んでサッチの肩をポンと叩き、次いで情けない顔で空腹をアピールするエースにサッチが諦めのため息をついて立ち上がった。
「あれ?サッチにエース、どうしたの?・・うわっ!なにそれ?悪魔の実じゃん!!」
どやどやと食堂に入ってきたハルタや他のクルーたち。
サッチの手に持たれたそれを見るや否や、叫んだハルタの声に全員の視線が集中する。
「うわ!マジっすか?どうしたんですか?それ!」
「サッチ隊長のですか?うわ、いいなぁ・・・。」
「もう何の実か分かってるんですか?!」
次々にサッチの周りへと集まり、悪魔の実を羨ましそうに見るクルーたち。
「食うか売るか、ちょいと今晩考えるぜ。どっちにしろ、一度図鑑を見てみねェとな!」
ぐるりと囲む人垣の中心で得意げに実を掲げるサッチを、怪しげに光る一対の瞳が見つめていた。