突発的

□Bダッシュ
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「おはよう」


私はこの一言の挨拶が好きな人に言えない。帰りの挨拶だってまともに言えやしない。それはなぜだろう。


「おはよう」


席に着くまで何人もの友達に挨拶するが、ただ1人にはできない。なぜなんだ。


「あー、あれ?」


カバンを開けたら筆記用具が入っていない。やっば、家に忘れたよ。まさかの事態だぜ、どうする竹内里美。


迷わず友達にシャーペンと消しゴムを借りた。カチカチ、とシャーペンのしんを出して宿題の残りをやろうとした時だった。



教室の戸が開きとっさに顔を上げると、あの人がいつもより20分早い到着をした。


宿題をしているように机と顔を近づける。カタン、と隣の席の椅子がひかれる音とカバンが机に置かれる音にいちいち反応してしまう。やばい、重症。


分からない問題を解いてるように見せかけシャーペンをノートに走らせる。


わかんない、わかんない、まじで何してんだろう。落ちつけ、落ちつけば解けるはずだ。


人の気配が隣からする。何か、上から見られてる。


「竹内、やってないのか?」


跡部景吾、通称――跡部。


「えっ、あうん」


「へぇ」


ヒョイ、と教科書を取られた。どうしよう、馬鹿にされるに違いない。


「これ分かんねぇのか?」


「いや、全部かな……いや、ちょっとかな。やり方さえわかれば出きるよー、返して」


「仕方ねぇ……時間あるな、教えてやるよ」


「まじか!」


どうしよう、すっごい嬉しい。跡部に教えてもらえるなんて今日は良い日だな。


それから朝のHRが始まるまで、跡部がみっちりと教えてくれた。私は椅子に座りながらで、跡部は立ちながらやってまるで先生みたいでかっこよかった。


放課後になってシャーペンと消しゴムを友達に返さなかった事に気づいてしまった。まだ、教室に戻れば間に合うだろう。すでに生徒玄関にいたが階段を3階まで上がり教室に入ろうとした時だった。


「景吾〜、わかんないよお」


「俺様が教えただろうが」


「それでも分かんない!景吾の説明は難しすぎるんだもんっ」


「ったく仕方ねぇな、分かるまで教えてやるよ。ただし、解けるまで帰さないからな」


「えー、そんなの嫌だあ!」


「あーん?」


跡部とたぶん後輩の女の子が仲良くしている。女の子は私の席に座っていて、跡部はその前の席の椅子に座っている。すごく近くて……普通じゃない。まるで、彼氏と彼女の関係に見えてしまう。


「景吾、じゃあねぇ……一問解けたらキスしてよ。えへ、冗談だよ……?ん」


キスした。跡部からキスをした。見ちゃった。胸が痛いし呼吸が苦しい。


「覚悟しろよ、あーん?」


辛いだけの感情じゃ例えられないくらい苦しい。夕食を食べてベッドに入ってからやっと涙があふれた。


2人は恋人だったんだ。私は、跡部が好きだった。好きだった。好きだった。だった……言葉は諦めてるけど心は諦めてないんだ。


でも、現実は諦めなければいけない。



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