ヘタリアの世界

□林檎
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室内から眺めるトマト畑はなんとも憂鬱だ。



「はぁ…、さっさと仕事終わらせて畑行きたいわぁー…」



溜め息を吐きながらも手を動かす。

いつもなら執務も好きなのだが、今日はちょうどトマトの収穫日だったのだ。


はやくトマトを収穫したい、トマトトマトトマト…



なんて頭の中がトマトで埋め尽くされていたとこで、執務室の扉が開いた。


ノックもせずにあける奴といえば…


「ロマーノやん!どないしたん?」


目の前に立つ青年しか知らない。




「なに?どしたんロマーノ」


いつもなら俺の顔を見た瞬間に暴言を吐くのだが、今日は黙ったままだ。



「……ロマ?」


なにかあったんやろか。
言いようのない不安が心を渦巻き始めた頃、ようやくロマーノが口を開いた。


「し、仕事手伝ってやってもいーぞこのやろー!!」



顔を真っ赤にして意外すぎることを言うもんだから、固まってしまった。


返答が無いことを拒否ととらえたのか、少し涙目になるロマーノを見て慌てて答える。


「ほんまぁ!?いやー、親分嬉しいわぁ!
…でも、いきなりどないしたん?ロマが自分から仕事するなんて言いだす思ってなかったわー」



「う、うるせぇぞこのやろー…」




とにかく手助けは嬉しい。
最近、畑作業ばっかりやっていたら書類が山のように溜まってしまったのだから。



そして、ロマーノに書類を渡す。



「うわ、お前仕事貯めすぎだろ…」


「ごめんなぁ。今日はトマト収穫しよ思ってたんやけど……、ロマ?」


「あ、いや!なんでもねーぞこのやろー!」



トマトの話題を言うとあからさまに反応したロマーノ。

つまりトマトに関する何か、が今のお手伝いロマーノを作っているに違いない。



「なぁロマ」


「なんだこのやろー。さっさと手を動かしやがれ馬鹿スペイン」


「今日なんかあったん?トマト「う、うるせぇぞ!」



ふむ。この反応からしてやっぱりトマトに関することのようだ。



トマト、トマト…と考えているとロマーノが処理済みの書類をもってきた。


「ほら、終わったぞこのやろー」


「えぇ!?もうなん!?早すぎるやろ…、って、ん?」


「な、なんだよ」



書類を持ってきたロマーノの体から微かに林檎の甘酸っぱい匂いがした。


「ロマ、林檎食べたん?えぇ匂いやなー」


「た、たべてねぇよ!」


「なんで否定するん?林檎のえぇ匂いしとるやーん」



ロマーノの華奢な体をホールドし、顔をすりつける。



「な、なななっや、やめろ畜生!はなしやがれぇええええ」


途端に暴れだすロマーノをしっかり押さえつける。


「ちくしょー!なんでこんな力強ぇんだこのやろーっ!」


「ふそそそ、だてに海賊やってたわけやないからなぁ〜」



やがて暴れ疲れたのか大人しくなったところを狙って、たずねてみた。


「なぁロマ。なんかトマトで嫌なことでもあったん?」


「なっ…!ちくしょー……。ぜ、ぜんぶテメーのせいだこのやろぉおおおおおおおおおお」



そんな細い体のどこにこんな力があったのか。


スペインですら疑いたくなるほどの強い力でロマーノはスペインの腕の中から脱出した。



いや、それよりも聞き捨てならない。


「ちょ、俺のせいってどーゆーことなん!?
なんかした!?」


ぜーっぜーっと肩で荒い息をするロマーノに尋ねる。


「お、お前が俺ん家にこねーから…、トマトが無くなっちまったんだよ!代わりに林檎食べたけどもの足りなくてだな…」


ごにょごにょと言葉を濁すロマーノが愛しくて仕方が無い。


「ロマーノ」


「な、なんだこのやろー!」


「トマト、採りいこか!えぇ天気やったから美味しいのできてるで!」



もう執務なんかどうだってよくて、今は目の前の愛しい人のために



「……おう」



俺は何だってしてやるんだ。

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