小説・蓋を開けたら2
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あの話しの後、なるべく家から出ないようにと注意され、クリスタルは宛がわれている部屋へと戻っていた。
もし目的が自分だとしたら、村の人たちにも被害が及ぶ。自分が殺されるかもしれないという恐怖より、クリスタルはそちらの方が怖かった。
もし自分の所為で村の人たちが殺されたらどうしよう。そんな事ばかりを考える。
俯いて暗い顔をするクリスの耳に、唐突に部屋をノックする音と自分を呼ぶ声が聞こえた。と、同時に、返事もしていないのにドアが開けられる。
「おーおー、暗っい顔してんなぁ」
「ゴールド…」
ゴールドの態度はいつもの事なのだが、条件反射のように「返事を待ってからドアを開けて」と口に出す。対するゴールドは少々うんざりとした顔で返してきた。
「お前、んな暗い顔してんのにいつもと言う事が同じってどーよ?」
「…そんなに暗い顔してる?」
「おう。いつもの生真面目な顔が、こーんな顔になってるぜ」
そう言いながら、自分の目じりを指で下に引っ張った。指先だけでなく、指の腹全体で引っ張ったため、ぐにっ、と顔が歪む。いつもなら此処で1言2言の応酬があるのだが、クリスタルは俯いたまま「そう」と小さな声で呟いたまま黙ってしまった。
その様子に自分の後ろ頭をがりがりと掻く。
「クリス、お前は何そんな落ち込んでんだよ?」
「…ゴールドも知ってるんでしょ?最近見たことない人が村をうろついてるって」
ゴールドの頭に浮かんだのは、先ほど自分と戦った赤毛に吊り眼の少年の姿だ。「あいつか」と思いながら、ゴールドは心のどこかでそれを否定する。喧嘩を吹っ掛けておいてなんだが、冷静に考えればあの少年は以前から言われていた不審者ではない気がするのだ。長めの赤毛、しかも子供という特徴的な外見が噂になっていないのが、その考えを肯定している気もした。
思考の海に引きずられているゴールドを余所に、クリスタルの話しは続く。
「その人がわたしを捜しているとしたら、わたしを匿っている村の人達全員が共犯になっちゃうわ。だから…」
「ったく、これだから頭の固ぇ真面目人は」
やれやれ、とでも言いたげにゴールドが呆れ交じりにそう言えば、クリスタルが「なんですって」と勢いよく顔を上げ、そして肩をびくつかせた。顔を上げた先にいたゴールドは、眉を吊り上げ明らかに怒っている。
「あのなぁ!オレ達はお前の事情全部知った上で匿ってんだっつーの!今更共犯者っつわれる事に怖がるかよ!」
「そうだとしても!わたしがいたら皆捕まっちゃうかもしらないのよ!?」
「だったらお前が見つかんなけりゃ何の問題もねーだろーが!!」
確かにその通りなのだが、クリスタルは納得いかなげに「でも」と続けようとするが、ゴールドが「でも、も何もねぇ」とぶった切る。
「いいか!変な気起こすんじゃんねぇぞ!」
そう言い捨て、部屋から立ち去る間際「それから、もう少しで飯だとよ」と続けた。
釈然しないまま、ゴールドの出て行ったドアを見ながら、ふと、先ほどまで抱いていた暗い気持が無くなっているのに気付いた。
ゴールドが意識して行動したのかは分からないが、明らかに軽くなった心にすっきりとした顔でクリスタルは部屋を出てリビングに向かった。
「(ありがとう、ゴールド)」