小説・蓋を開けたら2

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 夜、ゴールドは眠れずにいた。
 彼の頭を占めるのは、村で戦った氷魔法の使い手である赤毛の少年だ。なんとなくだが、少年がクリスタルを追っていた奴らと同じだとは思えなかった。軍関係者にも見えない。それに、やっぱりゴールドには、少年が噂の不審者とは思えなかった。


「(つーことは、他に不審者がいるっつーことだよな)」


 この広いとは言えない村に不審人物がいるというのは気味の悪い話しだ。安心して休む事すら難しくなるではないか。
 そいつがどのような思惑でこの村を見回っているのかは分からないが、狭い村ということは、いつ自分に害が及んでも不思議ではないということだ。いや、そういうことではない。この村の人たちは皆が皆知り合いであり、家族の様なものだ。決して便利とは言えないこの村で、協力して生きている。だから、温かい。生まれ育ってきたということを抜かしても、この村がとても好きなのだ。
 絶対に口にすることは無いが。

 ゴールドは好き勝手に生きているように見られがちだが、それだけではない。誰かに手ほどきを受けたわけではないが、自分が村に少ない魔法使いであると言う事実を自覚している。それが正義感へと繋がっていた。故に、村を害す奴らがいるのであれば、自分の持てる力全てを使いきってでも護ろうとするだろう。
 他でもない、自分自身の大切なものを守るために。


「(ん?)」


 月明かりの中、森に一瞬の光が見えた気がした。気の所為だと言えばそれまでなのだが、どうも気の所為には思えず、窓から身を乗り出し、目を凝らす。
 だがその光は見えることがなく、気の所為だったかと思い再びベッドに潜ろうとしたときだ。

 ぞわり、と全身の毛が逆立つ感覚に襲われた。


「!?」


 ゴールドは飛び起き、また窓から身を乗り出す。そして、今度ははっきりと見た。

 森から一瞬だけ、先ほど見た場所と違う場所から細い光が立ち上ったのを。

 そこからは何も考えず、愛用のキューを引っ掴み、寝巻に上着を羽織った姿で部屋のドアを乱暴に開け放った。
 あの感覚を味わったのは、何もゴールドだけではなかったらしい。
 廊下に出ればクリスタルが青い顔で部屋から出て来た。


「ゴールド!さっきの…!」

「ああ!今から見に行ってくる!合図出すまでぜってぇ家から出んなよ!」

「ちょ、ゴールド!?」


 玄関に向かう途中では母にも会い、引き止められるのも聞かず、家に居るようにとだけ言って玄関から飛び出した。
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