小説・蓋を開けたら2

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 一方、海岸側から村に入ったイエローは、襲ってきた“恐怖”に、共に来たレッドの服を震える手で掴んでいた。麦わら帽子により表情は見えないが、青い顔をしているだろう。それはピカとチュチュも同じで、ピカはレッドの頭上から下りようとしないし、チュチュは自分を抱きしめるイエローの服を掴んで放さない。
 レッドは嫌な予感が当たってしまったことに対し、渋面を作った。


「(シルバーは大丈夫か…?)」


 グリーンとブルーは一緒に居るのでまずは安心だが、1人で行動しているシルバーは危険だ。あの通信のときにでも注意を言っておけばよかった、と悔やむが、過ぎてしまったことは戻らない。
 レッドならば、シルバーを捜そうと思えば直ぐに捜せるだろう。イエローを抱えながら戦ったとしても、勝てない事は無い。だが、それをするということは、村人の何十という命が失われることを意味する。
 それならば、自由に動くためにまず本来なら避難所となっているはずの場所から感じる、この嫌な感じを倒さなければならない。
 そうと決まれば、と自分の服を掴んでいるイエローをひょいと小脇に抱え走り出す。


「ぅえええ?!」

「緊急事態だからちょっと我慢な!」


 驚きで“恐怖”が吹っ飛んだらしいイエローが声を上げる。ピカも慌ててレッドの帽子をつかみ、チュチュもイエローの服をしっかり掴みと、2匹とも落ちないように必死だ。それでも、間近に迫てくる“恐怖”に言葉を失くす。ピカのみ、若干青ざめた表情をしながらも、果敢に放電している。
 “恐怖”の正体は直ぐに知れることとなった。


「な、んですか、アレ…」


 目の前に立ち塞がった獣の姿を象ったドロドロした“モノ”、魔僕に、イエローは色を失くした声で呟いた。体はガクガクと震えている。それを抱えた腕から感じ取ったレッドは、自分の後ろに彼女を降ろした。イエローは腕に抱いたチュチュをきつく抱きしめ、抱き付かれ、“恐怖”で瞳に涙を溜めてレッドを見上げる。
 レッドは頭上にいたピカをイエローに渡した。


「大丈夫だ、直ぐ片付けるから」


 にっこりとイエローに笑顔向け、レッドは魔僕に向き合った。
 不思議なことに、イエローはもう震えていなかった。
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