小説・蓋を開けたら2

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 イエローと離れたレッドは、気付いてしまった、いや、気付かぬふりをしていた事実に目を向けざるを得なくなっていた。と言うのも、まだいるはずの魔僕がどこに居るのか分からないのだ。分からないということが揺るぎない証拠であり、レッドに真実だと否応なく告げていた。

 魔法使いの訓練すら受けていない一般人ですらあれほどの“恐怖”を感じる魔僕。ある程度の実力者ならば、何の苦労もせずその居場所を見つけることが出来る。その後上手く立ちまわれるかと問われれば、その人の実力次第と言うしかないのだが、それはともかくとして。
 魔僕が見つからない。これはブルー達と会ったあの軍部のときと同じだ。あの時も嫌な予感として感じることは出来たが、魔僕に近付くまで正確には分からなかった。
 つまりこれは、あのときと同じように人の手により魔僕が隠されている事を意味し、もっと言うのなら、魔僕が、いや魔僕を専有する軍がこの村を滅ぼそうとしている可能性があるというとことだ。
 いや、可能性があるどころではない。森と海岸、2つの避難場所に魔僕を放ったことから、逃がすつもりがない、つまり生かすつもりがないと窺えた。

 レッドが海岸から離れてから数分、振動と、何かの崩れる音が頻繁に聞こえてくるようになった。崩れているのは家屋であると簡単に推察でき、村人の安否が気にかかる。どうやら火の手も上がっているようで、煙が充満しきな臭い。
 たくさんの人の気配がある方へ走っていたレッドは、次第に聞こえてきた人の声の中に聞き覚えのある声を聞き、声を上げた。


「青か?!」

「赤!?」


 ブルーがたくさんの村人を引き連れてそこにいた。
 そこにグリーンの姿が見えない事に首を傾げ、ブルーに尋ねようとした。だが、レッドが尋ねる前に聞きたい事を察したブルーが説明を始めた。グリーンがいない理由に頷くことで理解を示す。


「アタシはこのままこの人達を連れて海岸の避難所に行くわ。あの怖い感じはしないけど、村にいるのは危険だもの」


 そう言ったブルーに、レッドが「待った」と首を振った。困惑の表情を見せるブルーに、他の人には聞こえないよう抑えた声でレッドは告げる。


「感じないだけで、まだ“アレ”はいるんだ」

「ええ!?」


 まだいるのかと、ブルーは驚愕する。全くそんな感じはしないが、自分よりも遥かに強く、気配に敏いレッドが言うのだから本当に居るのだろう。あんなものが何匹もいると考えると、それだけでゾッとして、思わず両腕を擦る。


「海岸の避難所で結界を張れるようにしておいたから、遭遇する前に行ったほうがいい」

「…分かったわ。こっちは任せて」


 その言葉で、レッドは当初の予定通り村を見てくるのだと悟ったブルーは、殊勝な顔で頷いた。ブルーとて実力者だ。たとえこの楽観視できない状況だとしても、避難誘導、通り道の確保だけなら自分だけで事足りる。
 煙の中、姿が見えなくなるレッドを見送り、ブルーは村人を誘導するため声を張り上げた。
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