小説・蓋を開けたら2
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避難行動に移っている人々にも、騒がれてはいないが問題が起きていた。
「クリスねぇちゃん!どうしよういもうとがいないんだ!!」
「ええ?!」
殿を務め、列の最後尾にいるクリスタルに、半泣き状態で「さっきまで手繋いでたのに」と必死で訴えているのは、よくゴールドに懐いている男の子だ。
この中で逸れてしまったのだとしたら、最悪の事態を考えざるを得ない。周りの大人は、火事や家屋崩壊の所為で大抵怪我をしていて手助けを頼める状態ではないし、混乱と騒動を招くだけだ。青は道を作らなければならないため、頼るわけにはいかない。緑が村を見て回っているとはいえ、この視界の悪さだ。村に昔からいたわけではないのだから相当辛いだろうし、見知らぬ人よりも見知ったクリスタルが捜しに行けば、自分から出てきてくれるかもしれない。
「わたしが捜しに行くわ。だから皆と逸れないようにして」
「で、でもクリスねぇちゃんが…」
「わたしは大丈夫よ。あなたの妹が持っていたものを何か持ってる?」
迷うように言う男の子に視線を合わせるようしゃがみ、クリスタルは笑顔を見せた。
男の子は急いでポケットに手を突っ込むと、キラキラとした小さな石をクリスタルに渡した。
「これ、昨日おれがあげたやつなんだ!あといつも、迷子になったらゴールドにぃちゃんち行くように言われてる!」
この視界であるが、慣れ親しみ、あまり広さの無い村だ。女の子がゴールドの家に行っている可能性は高い。例え迷子になっているとしても女の子の持っていた物があるのなら、クリスタルに捜せないものは無い。それにクリスタルが魔法を使えば、自分の視界を確保することくらいなら出来る。
「分かったわ。ちゃんと皆に付いて行くのよ?」
「う、うん!」
男の子にしっかり言い付け、クリスタルは1人集団と離れ銀光を放つ魔法陣を展開させた。魔法陣から、凝縮された空気の球が浮かび、男の子から預かった石を包み込む。クリスタルが瞳を閉じれば、魔法陣はゆっくりと明滅し、呼応するようにクリスタルの耳にある星型のイヤリングが光り出した。
暫くして目を開けたクリスタルは形の違う魔法陣を展開し、煙を払いながら迷いなく真っ直ぐと進んで行った。