小説・蓋を開けたら

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 故郷を旅立ってから2週間弱。ようやくシロガネ山のふもとに辿り着いた。
 大人の足でも2〜3週間はかかる道のりを、子供の足で2週間弱というのはかなり早い到着と言えるが、それでもグリーンにとっては遅いとしか思えない。なにせ、自分と同い年のレッドはシロガネ山に居を据え自分よりも早い日数で移動できるのだ。
 見つからないように脇道に逸れ少々遠回りをしたため、レッドよりは長い距離を歩いているので本当に遅いのかは分からない。それでもグリーンは遅いと思った。

 故郷には、自分と同い年の少年はいなかった。それゆえ、たまに遊びに来るレッドを無意識化でライバル視してしまっている。レッドもまた、自分のことをライバル視しているので何かと張り合う事が多かった。
 そのことを思い出せば、自然と肩の力が抜けていった。

 少々重大な事からくだらないことまで、さまざまな事で張り合っていた。その時の事がなんだか無性に懐かしい。

 だが今は感傷に浸っている場合ではない。軽く頭を振って思考を切り替え、聳え立つシロガネ山を見上げた。
 正直、こんな体力でレッドのいる山頂まで登れるとは思えない。聞く話しによれば、獣道すら見当たらず、自分で道を切り開かねばならないらしい。その上、中腹に獰猛な動物がときには群れを成し登山者を襲い、頂上付近には獣はいないものの、むき出しの岩肌や急な坂道、雪に隠れた崖により命を落とす者が後を絶たなかったという。
 どこまで本当かは分からない。だが、あながち間違ってはいないだろうと思っている。

 命を落とす可能性の方が明らかに高い。だが、ここで休むわけにはいかないのだ。
 運の悪いことにふもとには軍人が駐在している。ようやく此処までこられたと言うのに、こんなところで見つかるわけにはいかなかった。
 山に入り、中腹にさしかかる前で休息を取る。それが一番の方法だと自分自身に言い聞かせ、祖父から譲り受けた剣を握りしめて、ふらつく体に鞭打ってグリーンは一歩を踏み出した。
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