小説・蓋を開けたら
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「うっ……」
体がだるく頭も重い。
起きる気になれず、寝返りを打ち布団にうずくまる。
「(ちょっと待て)」
霞がかかっていた頭が一気に覚醒する。飛び起きた瞬間頭の奥に鈍痛が走った。これでは、立つのは無理そうだ。
呻きそうになるがそれを抑え込み、せめてと思い、辺りを見回した。
部屋は散らかってはいるが不潔さは感じられない。机の上に置かれた用紙と、インクのボトル、万年筆は、遠目でも高価と分かる代物だ。本棚や床に積み重ねられた本は魔法書や体術に関するものが多い。部屋の隅に置かれている、湯気を出し続けている半球を背中合わせにくっつけたような不思議な器。鈍色に輝くそれは、魔法具なのだろうが本でも見た事のない道具だ。そしてベッドサイドテーブルには自分の剣と、元から置いてあったのだろう、綺麗に磨き上げられた日時計が置かれている。
日時計には親機と子機が存在し、この日時計は子機のほうだ。子機は魔法により親機とリンクしており、室内の明かりに関係無く、外に置かれた巨大な親機の日時計と同じ場所に影ができる。つまり、日時計は魔法具の一種なのだ。通常は、自分が持っている子機を街や村の中央に置かれている親機とリンクさせて使うのが普通だ。
この世界では機械技術と言ったものがほとんど発展しておらず、ほとんど魔法に頼っている。そのため、アナログ環境が普通なのだ。
見られる範囲を一通り見回し、グリーンは首を傾げた。
「(オレはシロガネ山で倒れたはずだ。それなのになぜ布団に包まっているんだ?)」
見知らぬ部屋だと言うのになぜか危機感が湧かない。
部屋を一通り観察していたら、不意に近付いて来る気配を感じ、サイドテーブルに堂々と置かれていた剣を手に取った。
近付いて来る気配を待ち構える。
扉が開かれた。