小説・蓋を開けたら

□6
1ページ/3ページ



「よかった、来てくれて助かったぜ!」


 突然現れた茶髪の少年に、赤が場にそぐわない笑顔と答えになっていない言葉を向けた。どうやら仲間のようだ。


「(あら?さっき“レッド”って…)」


 聞き間違いでなければ、赤のことを“レッド”と呼んでいた。どっちが本名かしら?
 疑問が浮かぶが、ガチャガチャと鳴らされるドアノブと、外から聞こえてくる声にそれどころではないと気付く。


『っち!鍵がかかってる…』

『おい!早く持ってこい!』


 怒鳴り声に思わず身を固くする。シルバーも同じような反応をしていた。茶髪の少年は警戒するように扉を睨みつけ、腰にある刀に手をかけている。だが、赤だけは違う反応だった。


「あちゃ〜」


 まるでイタズラがばれたときのように、苦笑を浮かべて頬を掻いている。
 ………何でそんなに余裕そうなのよ。


「どうするつもりだ」


 警戒をそのままに、横目で自分を一瞥して問いかける少年に、赤はあくまで冷静、いや、マイペースに答えた。


「うーん、あんまり関係がありそうな資料はなかったんだよな。でもこの状況じゃ誰か捕まえて情報聞き出すのも無理だろうし。だからここから脱出すればいいだけなんだけど…」


 語尾を濁して、ちらりとこちらを見る赤に、アタシは迷わず縋りつく。


「お願い!アタシはともかくこの子だけでも連れて行って!!」

「姉さん!?」


 シルバーが驚いた声を上げる。でも、アタシはそれを無視した。


「あなたも知ってるでしょ!?この子がさっき足を怪我したのを!あいつらから逃げるのは無理だわ!」


 アタシは1人でもなんとかなる。でも、逃げるのに重要な足に怪我をしたシルバーはそうもいかない。
 赤は女の子に慣れていないようだ。決して嘘ではない涙を浮かべれば、顔を真っ赤にしてあわあわと腕を動かした。


「お願い!!」

「ちょ、ちょっと…!」


 さらに詰め寄ってもう一度懇願する。
 せめてこの子だけは、と思うのだ。もちろん自分も助かりたいし、助かる気でいるのだが、軍に捕まる前の記憶が無いシルバーには連れてこられてからの辛い記憶しかないのだ。そんな悲しい事ってないじゃない!
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ