小説・蓋を開けたら
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「よかった、来てくれて助かったぜ!」
突然現れた茶髪の少年に、赤が場にそぐわない笑顔と答えになっていない言葉を向けた。どうやら仲間のようだ。
「(あら?さっき“レッド”って…)」
聞き間違いでなければ、赤のことを“レッド”と呼んでいた。どっちが本名かしら?
疑問が浮かぶが、ガチャガチャと鳴らされるドアノブと、外から聞こえてくる声にそれどころではないと気付く。
『っち!鍵がかかってる…』
『おい!早く持ってこい!』
怒鳴り声に思わず身を固くする。シルバーも同じような反応をしていた。茶髪の少年は警戒するように扉を睨みつけ、腰にある刀に手をかけている。だが、赤だけは違う反応だった。
「あちゃ〜」
まるでイタズラがばれたときのように、苦笑を浮かべて頬を掻いている。
………何でそんなに余裕そうなのよ。
「どうするつもりだ」
警戒をそのままに、横目で自分を一瞥して問いかける少年に、赤はあくまで冷静、いや、マイペースに答えた。
「うーん、あんまり関係がありそうな資料はなかったんだよな。でもこの状況じゃ誰か捕まえて情報聞き出すのも無理だろうし。だからここから脱出すればいいだけなんだけど…」
語尾を濁して、ちらりとこちらを見る赤に、アタシは迷わず縋りつく。
「お願い!アタシはともかくこの子だけでも連れて行って!!」
「姉さん!?」
シルバーが驚いた声を上げる。でも、アタシはそれを無視した。
「あなたも知ってるでしょ!?この子がさっき足を怪我したのを!あいつらから逃げるのは無理だわ!」
アタシは1人でもなんとかなる。でも、逃げるのに重要な足に怪我をしたシルバーはそうもいかない。
赤は女の子に慣れていないようだ。決して嘘ではない涙を浮かべれば、顔を真っ赤にしてあわあわと腕を動かした。
「お願い!!」
「ちょ、ちょっと…!」
さらに詰め寄ってもう一度懇願する。
せめてこの子だけは、と思うのだ。もちろん自分も助かりたいし、助かる気でいるのだが、軍に捕まる前の記憶が無いシルバーには連れてこられてからの辛い記憶しかないのだ。そんな悲しい事ってないじゃない!