小説・蓋を開けたら
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グリーンとブルーは裏通の出口から頭を出した。
目の前に見えるのは大きな屋敷。どうやら此処は裏手のようだ。
辺りを見渡したグリーンは納得したように呟いた。
「…ここに繋がっていたのか」
声は決して大きくない。むしろ囁くような、言葉として出てくる前に口の中で消えたような大きさだったが、すぐ隣に居たブルーの耳にはかろうじて届いていた。
「知っている場所なの?」
ブルーは軍に連れていかれてからが長いため、外の事を全く知らない。そのためグリーンを頼るしかない。出来る限り情報を得ようと、また、軍人の目を盗んで集めた情報と繋ぎ合わせようと、頭の中で街並みを地図化する。
「ああ。…こっちだ」
そう言って先導しようとしたグリーンだが、歩きだした瞬間、急に立ち止ってしまった。
自分に地図を渡したのはあの屋敷に行けと言う事なのだろう、と考えたのだが、はたしてこの女を連れて行っていいのだろうか。だが、助けると言った手前置いていくわけにもいかない。
何よりもブルーが持っている情報を知りたかった。
「?どうかしたの?」
誰かいたのかと回りを見て、誰もいないことを確認したブルーが怪訝そうな表情を浮かべ、グリーンを覗き見る。
覗き込んできたブルーを遠のけ、何でもないと一言告げ止めていた足を動かした。
しばらくは不審そうな顔をして共に歩いていたブルーだが、グリーンが何も言わないでいると、やがて諦めたように肩を竦め違う事を尋ねた。
「ねえ、グリーン」
グリーンからの返事は当然の様に無いが、此処に来るまでの間にあらかたの性格を理解したブルーは特に何も言わず話しを続ける。
「あの屋敷に向かっているのよね?あの屋敷の人とは知り合い、なんだろうけど、一体誰の屋敷なの?」
この街の住人で、ブルーの質問に答えられない者はいない。それほどまでに有名な人物ではあるが、何も知らないブルーからしてみれば当然の質問だ。いつものポーカーフェイスで、どう答えようかと考えを巡らせる。
質問に答えるのは簡単だ。だが、表面上の立場を言ったのではこの場合意味が無い。だからと言って、裏面はおいそれと教えていいことではない。今現在、彼女は保護対象というだけであり、こちらの仲間と言うわけではないのだ。
「簡単に答えることは出来ない」
「何?危ないの?」
「…それより、あの屋敷に着いたらオレの事は“緑”、レッドの事は“赤”と呼べ。それから、お前も本名を言うな」
ブルーに本名を言わせないのは念のためだ。
彼女はぐらかされた事には気付いたのだが、それと同時に、今から会う者とグリーンたちとの両者間に壁が存在することにも気付いた。そのため、文句を言う事も無く、神妙な顔で頷いた。