小説・蓋を開けたら

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 見るもの全てが物珍しくて、聞く事全てが新鮮だった。
 シルバーと2人の質問攻めにグリーンが心底うんざりしているのは分かったけど、アタシたちは軍に連れていかれてから気分転換にと街に連れて行かれる以外に、外に出た事なんて無い。だからちょっとくらい甘やかしてくれてもバチは当たらないと思うのよね。
 アタシはもちろんシルバーも楽しそうだし。この子のこんな表情、始めてみたわ。
 なんてちょっと浮かれた気分で思っていたら、これまで頭に辞書が丸ごと入ってるんじゃないかってくらいスムーズに返答していたグリーンが黙った。
 調子に乗りすぎちゃったかしら?と思ったけど、そうじゃなかったみたい。


「後ろを見てみろ」


 グリーンが少し後ろを振り返りながらアタシたちに言ってきた。
 シルバーと顔を見合わせて、疑問符を浮かべながら振り返った。その瞬間、信じられない光景に目を見開いた。


「な!?」
「嘘!?」


 今まで1本道を通ってきたはずなのに、後ろには虫の足のように幾つもに枝分かれした道があった。後ろだけじゃない。ふと気が付けば横にも広い道があった。


「…どういうこと?さっきまで1本道だったわよね?」


 思わず呟けば、横に居るシルバーから肯定の返事が返ってきた。
 よかった、アタシの勘違いじゃないみたい。


「これが、この洞窟からシロガネ山山頂に行く者がいない理由だ。そもそも、この洞窟がシロガネ山に繋がっているのを知っている者はいないだろう」


 歩き始めたグリーンの腕を慌てて掴み、逆の手でシルバーの手を引いた。こんなところで逸れたら確実に生きて出れないもの。
 そんなあたしの心境を知ってか知らずか、グリーンは掴まれている腕なんて全く気にしないでこの不思議な現象について解説を始めた。


「この洞窟は、通称“迷宮の洞穴”と言われている」


 淡々と話しを続けるグリーンにしがみ付く力を強くすると、シルバーもアタシの手を握る力を強くした。
 …怖がってるの、バレたかしら?
 そうだとしたら姉としてはちょっと恥ずかしいけど、気を使ってくれているのは嬉しく感じる。感情のままアタシも強く握り返した。
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