小説・蓋を開けたら

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「軍が襲われたって…」


 呟くカスミの声は。驚きで震えている。そんなカスミの横で、マサキが真剣な声色で水鏡に映るエリカに尋ねた。


「…先ほど、言うたな」

『ええ』


 先ほど。今は昼時であるから、最初に仕入れた情報通り、昼時に子供の帝国軍部への移動を始めたのだろう。いや、言いたいことはそうではない。
 何度も言うが今は昼時。つまり軍を襲った者達は、白昼堂々、国に反逆の意思を見せつけたのだ。それも、カントーの中心都市タマムシ付近で。
 流石に、今まで無かったことだ。
 と言うのも、捕まってしまえば自分だけでなく家族、最悪、恋人までもが死罪、良くて無期懲役、無金労働だ。証拠がある、または現行犯でない限り捕まることは無いとされているが、それが絶対とは言い切れない。そうでなくとも、大切な人が係わってくるのなら慎重にならざるを得ないだろう。


「エリカ、そいつらの特徴とかって分かるか?」

『ええ、あれだけ堂々と行動を起こされれば嫌でも』


 眉間にしわを作り、苦々しげに皮肉を吐きだすエリカ。おそらく、民間人に被害が出たのだろう。
 彼女のこういった様子は大変珍しく、一同は顔を引き攣らせた。普段温厚な人ほど怒ると怖いものである。


『…特徴でしたわね』


 一拍置き、未だ棘は感じるものの幾分か普段の雰囲気に戻った。それに安心し、話しを進める。


「うん」

『全員が黒で統一され、胸にRの文字が入った服を着ていましたわ。もちろん、顔は隠されていましたが』

「…なんて言うか」

「自己主張が激しい奴らやな…」


 真昼間から黒服、それも、“全員”と言うことは集団だろう。なかなかに深刻な話しだというのに、一瞬そんなことも忘れて呆れてしまった3人だ。


『ですが腕は確かなようです』


 集団だというのに襲撃まで誰も気付かなかった。そして軍人全てを片付け、援軍が来る前に子供たちすべてを救出したという。


「かなりの手練がいるのね…」

「それか、リーダーの腕がええのか…」

『詳しいことは分かりませんが、目的意識もなくただ国に反抗しているだけ、と言うわけではなさそうですわ』

「そうだな。…オレも何か分かったら連絡するぜ」

『ええ、頼みます』


 その言葉を最後に通信は切られ、そこにはただ透明な水が幽かに揺れているだけだった。


「子供たちの救出…か」


 昨日、レッドがやらなかった、いや、出来なかったことだ。
 何人いるかも分からない子供をグリーンと2人で助け出すなどリスクが高すぎるし、何より救出した子供を匿う場所がない。シロガネ山に匿えばいいと思う人もいるだろうが、場所、広さを考えれば全員を匿えるとは思えない。
 助け出すだけ助け出してそのまま放置、と言うわけにはいかないため割り切ってはいるが、それでも後ろめたいものはあった。


「(とりあえず、グリーンたちに報告だな)」


 そう心に決め、マサキとカスミに別れを告げた。
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