小説・蓋を開けたら2

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 イエローを後ろに庇い魔僕を見据えているレッドは、違和感に眉を寄せた。魔僕がレッドを警戒するような姿勢を見せ、襲ってこようとしないのだ。
 魔僕にはある程度の知性しかない。基本的な動きは一般の動物以上だが、それはただの本能だ。魔僕に備わっているのは“喰らう”ことだけ。例外として、作り出した魔法使いの言うことは聞くとされているが、実際に従わせている魔法使いを見たことはない。
 とにかく、この魔僕のように警戒を見せるのは異常だった。


「(調べないといけないな…)」


 このことを依頼終了後の予定に追加し、レッドは頭を切り替えた。まずは今やるべきことを終わらせなければならない。幸い、ここに燃えるようなものはない。これなら、周りに遠慮することなく早く終わらせることが出来る。
 レッドが左手を魔僕に向ける。魔方陣が展開されると同時に、巨大な半球型をした炎の塊が現れた。そのまま左手で何かを摘む動作をすると、魔方陣は消え、半球は雫の形で宙に浮かんだ。燃え盛る雫の中もがき狂う黒い影がチラチラと見え隠れする。最後に炎と共に消滅させようとしたレッドが、不意に手を止め訝しげに眉を寄せた。
 だんだんと炎の勢いが弱くなってきている。



「(もしかして…!)」


 喰われている。
 レッドはそれなりにあった魔僕との距離を一気に詰めながら、左足に白い魔法陣、治癒魔法などの肉体に影響を与える魔法を発動させる。白い光が左足を包む。
 軽く跳躍し、魔法の効果により一時的に他の魔法の影響を受けなくなったその足を炎に包まれた魔僕の頭上に叩きつけた。
 衝撃で炎が弾け飛んだが、砂浜に落ちた魔僕は前足に力を入れ、勢いよく落とされたレッドの足を押し返す。徐々に埋まって行く前足が、どれほどの力で押し合っているのかを物語っている。


「っらぁああ!!」


 気合の叫びを上げ、レッドは押し合いに勝ち足を振り切った。盛大に砂を巻き上げながら、魔僕は砂浜にその顔をめり込ませた。巻きあがった砂が一時的に視界を奪うも、そんなもの物ともせず、魔僕の上に灰色の光を放つ魔法陣を展開させる。そこから幾本もの太く先鋭な鉱物が落下し、魔僕を貫通した。悶え苦しむように暴れながら、真っ先に口を潰された事により断末魔が響かせることなく消滅していく魔僕を見届け、レッドは深く息を吐き肩の力を抜く。


「行こう、イエロー」


 振り向き、イエローに向かって手を伸ばす。イエローは頷き、その手を取り歩きだした。
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