小説・蓋を開けたら2

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「なに、あれ…」


 ブルーが引き攣った声を上げ1歩下がった。恐怖に混乱しながらも、親子の前からは決してどかない。
 刀を構えて“アレ”いや、魔僕を見据えるグリーンは、シルバーから話しを聞いていたためブルーほど混乱していなかった。それでも、実際に体験する“恐怖”には息を呑む。
 そうしている間に、魔僕が凄まじい脚力で持ってグリーン達に襲い掛かって来た。
 どろりと口を開けた魔僕の口内にあったそれは、はたして牙と言えるのかと戸惑うものがズラリと並んでいる。それに気後れすることなく、上あごと下あごを分断させるようにグリーンが切り掛かった。


「っ!?」


 切ったという確かな手ごたえを感じることが出来ず驚いて魔僕に向けば、切った箇所がどろどろと塞がっていっていた。どうやら物理攻撃は効かないようだ。
 その様子に僅かに硬直したグリーンを余所に、魔僕はブルー達へと向かっていく。
 ブルーが水で壁を作るが、怯むのは一瞬でシルバーの氷を喰らうように溶かしていたあの魔僕と同じように、水の壁がどんどんと薄くなっていく。ブルーの顔がみるみる内に青くなり、今にも卒倒してしまいそうになるが、それでも壁を作る手に緩みは無い。薄くなった分を補うように、今度は渦巻く水を壁とする。

 グリーンは1度刀を鞘へ仕舞い、腰を低く落とした。手を柄に添え、驚異的なスピードで魔僕に向かって駆けてゆく。魔僕に当たる直前、重心を腰に置き、柄を握った手に銀色の魔法陣を展開させ魔僕を横に両断する。風を切る音がやけに耳に残った。
 上下に分けられた魔僕が、ボド、と倒れ落ちる。切られた場所には空気が渦を巻き、再生の邪魔をする。治す為にどろりと蠢く黒が渦に巻き込まれて再生できないのだ。
 このような姿になっても蠢く魔僕に、グリーンが眼光を鋭くした。最後と言わんばかりに、緑の魔法陣を展開させ、そこから現れた蔦が蛇のように動き魔僕を押しつぶす。
 蔦の動きが止まり“恐怖”も消える。魔法陣を消せば蔦も消え、その下に魔僕はおらず完全に消滅したことが知れた。


「やった!」


 水の壁を消したブルーが、浅く息をしながら喜びに飛び上がった。ブルーと同じく浅く呼吸を繰り返すグリーンは、背後から視線と人の気配を感じ警戒しながら振り向いた。
 そこには、半ば呆然としながらこちらを見ている、2つに結んだ髪が外に跳ねている、自分たちよりも歳下であろう少女の姿があった。



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