小説・蓋を開けたら2
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音がした現場にクリスタルが到着したのは、大量の蔦が1か所に群がった時だ。そしてその瞬間に、“恐怖”が消え去ったのを感じた。
まだ子供といえる年齢だろうに、あれほどまでに大量の蔦を出現させ操った、自分より年上だろう少年と、そのすぐ近くにいる少女のことを、思わずぼんやりと眺めた。そうしていると、少年のほうがこちらを振り返る。
「村の者か?」
「は、はい!」
急に話しかけられた事により、肩をびくつかせながら返答すと「そうか」と言い、少年はこちらに近付いてきた。
「オレは緑、依頼でこの村の避難を手伝うことになっている者だ」
「依頼、ですか?」
クリスタルは違和感に眉を寄せた。
この村がこのような状態になってそんなに経っていない。だと言うのに、依頼と言うのは些かおかしい。崩れた家にいた家族を助けているのだから、少なくとも敵ではないだろうと予測出来るが、違和感は拭えない。
その考えに気付いたのだろう、緑は言葉を続けた。
「詳しくは言えないが、ウツギ博士も関与している」
「ウツギ博士がですか?」
思わぬ人物の名前に、疑心が一瞬剥がれ落ちる。ウツギ博士はこの村の住人で、その上村長という立場にある。だから何の不思議もないのだが、自分が疑っている人物から名前が出ると変な感じだ。
クリスタルの言葉に、緑は律儀に肯定を返し、軽く視線を巡らせた。
「…避難は進んでいないようだな」
「はい。何かが崩れる音もしたのですが、凄く怖い感じがして…」
それで避難するに出来なかったのだ、とクリスタルは告げた。事実そうだった。誰もが“恐怖”に慄き家で縮こまっていた。