小説・蓋を開けたら2

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「わたし、この事を他の人にも伝えてきます。避難を進めないと、このままでは危険ですから」

「頼む。海岸の避難場所には治療を得意とする仲間がいる。怪我人はそこで治療してもらうようにしてくれ」

「分かりました!」


 責任感に満ちた瞳で頷いたクリスタルは、次に親子の方を見た。


「避難場所まで行きましょう。1人でお子さんと旦那さんを連れてはいけないでしょうから」

「ええ、ありがとう、クリスちゃん」


 そのやり取りを無言で見ていた緑と少女は互いに視線を向け合い、そして同時に頷いた。


「アタシも行くわ。戦える人がいないと危険でしょ?」

「え?ですが…」

「緑は平気よ。それに、予定ではもう1人こっちに向かってるはずだから」


 言い終わるまで待つことなく、緑は背を向け1人逆の方向へ歩き始めた。クリスタルは「早く生きましょう」と急かされ、曖昧に頷く。
 意識の無い夫と肩を組み、引きずるように運んでいる母親に手を貸し、子供を少女へ預けた。
 歩きながら、少女が唐突に声を上げる。


「ああ、そう言えば自己紹介がまだだったわね。アタシは青(アオ)。よろしくね」

「クリスです。よろしくお願いします」


 クリスタルは本名でなく愛称を名乗った。自分が追われている身だと理解しているからだ。
 軍関係者じゃないとは限らないから、と、笑顔を向けてくる青に心苦しく思いながら内心で言い訳をした。



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