オリジナル

□嵐は唐突に
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 アレックスはどこからか響いた銃声と大きな揺れで目が覚めた。

「敵襲ー!!右舷三時の方向より攻撃を確認!!」
(なっ…!?)

海賊船、ヴィタリエン・ブリューダー号は補給の為寄る予定であったカラキム周辺で砲撃を受けた。伝達係の男によると、敵は最新式の大砲を積んだ新参者の海賊らしい。しかも赤旗さえ上げずに攻撃してきたとのことだ。

「庶民でも知ってる海賊のルールを堂々と破るなんてな…」

とにかく部屋から出て外の様子を確認しよう。アレックスは護身用の銃を枕元から引き出すと甲板へと向かった。



「ダメだぁお頭、こっちとあっちじゃ弾の飛距離が違いまさぁ。どうやったって届きませんよ」
「HA!なら鉤縄をマストまで飛ばせ、大砲でな」
「了解でさぁお頭!!必ずヒットさせてみせまさぁ」
「おう。お前の砲撃の腕はウドガル界一だと俺は知っている。派手に散らしてこい」

そう言ってデカい男は砲撃手らしき男の背中を勇気付けるように叩き行かせた。この2メートル近くはありそうな男こそ、この船の船長であるクラウスだ。お頭や船長、キャプテン、と言った呼び声に対応し忙しく指示を飛ばしている。

「何か手伝うことはあるかクラウス」
「けが人の治療を頼む」
「了解」

せめて何か手伝おうと指示を仰ぐとそう言われた。もちろん医者を目指す自分が怪我人の治療を忘れていたわけではない。ただ、今のとこ船に怪我人はいなかったから聞いただけだ。クラウスの口ぶりからすると、これから怪我人がでるのだろう。アレックスは医療器具を準備しに船内に戻った。


──え!?

 大砲の発射音を聴いたと同時に甲板に戻ったアレックスは驚きの光景を目にすることになった。

「ちょっくら行ってくんぜ〜」
『「「頑張って下さいお頭(船長、キャプテン、兄貴!!)」」』

大勢の男達に応援されながら縄を持っていたのはクラウスだった。
どうやらさっきの音は鉤縄を発射した音だったらしく、敵船のマストにしっかりと巻き付いている。クラウスは皆に軽く手を振ると甲板の手すりを蹴り勢いよく飛び出した。

そのまま縄を伝い敵船に侵入すると、クラウスは瞬きする合間にどんどん敵を倒していった。もはや人間の動きには思えないようなアクロバティックな連撃を仕掛けている…敵に同情したくなった。
有り得ない程の強さで一騎当千するクラウスは敵の戦意を喪失させるには十分だったらしく、敵は次から次へ我先にと海に逃げて行く。


 しかし、そんな中たった一人残った男がいた。
まだ子供で、よく見れば船長のような帽子を被っている…まさかあの少年が船長なのだろうか。2人は何か話しているようだがここからでは聞こえない。…ただクラウスが時折その少年に向けて笑いかけるから何だか胸の辺りがざわざわした。敵は後一人なんだから早く倒して戻ってくれば良いのに。


 しかし笑いかけているのはクラウスだけで、少年は剣を構え強張った顔でクラウスを睨んでいる。

船の上で鳥が鳴いた、途端に少年が力強く踏み出し剣を振り抜いた。剣はあと少しという所で鼻先を捉え損ね、クラウスのにやけた笑みを映す。勝負はすぐに着いた。剣を避けたクラウスはカウンターを繰り出し、見事少年の鳩尾にヒットさせた。

気絶し崩れ落ちてくる少年を肩で受け止めそのまま担いだクラウスは、こちらに手を振ったのだった。



* * *


「離せ、離せよ!!俺に触んな!!」
「活きのイイ小僧だな」


さっき捕らえた敵船の船長(少年)は気絶から目覚めぼんやりしていたところをクラウスにつまみ上げられていた。


「…クラウス、お前人に怪我人の治療を頼んでおきながら敵船に単身乗り込むってのはどういう了見だよ。」
「ん?あー悪いな。船に小僧が見えたもんだからよ、怪我させないようにと思って」
「けど…それ敵船の大将じゃねぇのかよ」

 敵船に1人突っ込んでいくクラウスを見た時には寿命が縮むかと思ったが、その心配も今やイライラに取って代わり矛先はクラウスに向いた。だがクラウスにもそれなりの理由があったらしく、少年を助ける為だったという。…しかしそれは見方を変えると敵船の船長を拉致して来たということに他ならない。いったい何を考えてるのか。

 話し込んでいたので注意が逸れていたらしい、少年のジタバタさせた足がクラウスの脛に直撃した。ゴッという硬いブーツの先が当たる音とクラウスの声にならない悲鳴が聞こえた。そのおかげでつまみ上げられていた手が離れ、一転自由になった少年はクラウスの腰から素早く銃を抜き取るとアレックスに狙いを定める。

「動くな!!動いたらこの兄ちゃんの穴が増えることになるぜ」

少年は青色の髪の向こうから闘志を覗かせながら果敢にもそう言い切った、すると。

「………ぶっ」
「わはははははは」
「ひぃひぃーはっはー」
「…っは、腹痛ぇよ。アイツ阿呆だぜ」

甲板にいた男達が一斉に笑い出した。いったいどうしたというのか、っというか俺ピンチなんだけど?!!笑い事じゃないだろ!!

笑う男達を少年と共に睨みつけながらも、痛みから解放されたらしいその銃の持ち主に目を向けた。

「いってぇー…思いっ切り蹴りやがって。ったく、生意気なガキだな」

そう言って信じられないことにどんどんこちらに近付いてくるクラウス。

「おいジジィ動くな!!本当に撃つぞ」
「ジジィ…俺はまだそんな歳じゃ」
「動くなクラウス俺が撃たれるだろ!!」


2人から止まれと言われ「やれやれ」と言って一応足は止めたが…いったい何を考えているんだクラウスは。

「あのなぁ小僧。その銃は俺にしか使えないんだよ」

クラウスの銃は装飾が派手なものの見た目は普通の銃となんら変わらない。特別扱いが難しいようには感じられない。

「誤魔化しても無駄だぞ。あんたがさっきこれ使ってんの見たんだからな」
「だーかーらー、使えねぇんだよ。俺以外が引き金を引いても弾は出ねーの」
「おいこんな時に冗談言ってる場合かよクラウス」

俺の命が掛かってるのに、悪ふざけにも程がある。だが、周りの船員達はクラウスの言葉に頷いている。まさか本当なのだろうか。

「うるさいうるさい!!俺が殺せないと思ってんだろお前ら!!」

やってやる、そう呟いた少年は躊躇いながらも自棄になったのか目を瞑りながら引き金を弾いた。



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