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□四話
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───ダダダダダ


 巻き起こる砂塵は視界を消し、幾多の銃声と怒号は悲鳴と戦場のBGMを奏でる。

音の途絶えないその中にあって、僕の心は静かだった。匍匐の状態で悲鳴に耳を済ませ、声のした方に向けて発砲すれば途切れる悲鳴。
───ガサガサ
背後から何者かが忍び寄る気配がした。咄嗟に銃を構えて見えない敵を迎撃する。
「がぁアッ?!!」
被弾する音と男の野太い絶叫がこだました。今のでこの狩場も危うくなった…場所を変えなければ。


 セルジュは坂の上の木で丁度隠れる場所まで来た。「ここならまだ…しばらくはみつからない」弾を補充しスナイプモードでまた狙い撃つ。その頃にはだいたいの拠点を制圧し終わっていて後は撤退命令を待つばかりだった───が、
『見つけたぞ、友の仇!!』
「……ッ!!?」
しまっ───?!!
背後が死角であった為に急接近していた敵に気付かず射程内に侵入を許してしまった。慌てて迎撃態勢をとるも錯乱した敵は銃を乱射しながら目の前まで迫っていた。マシンガンの連射音と男の雄叫びが辺りに響き、同時に右足に焼けるような激痛が走る。思わず痛みでライフルを落としてしまった。この至近距離でのマシンガンは避けられない。
(もう…ダメか……)
セルジュは死を覚悟して最後の戦場を目に焼き付けた。



















───ダダダダダ


「大丈夫かセルジュ!!」
「隊長?!」
間一髪、轟いた銃声は敵ではなくクルトのものだった。
砂煙の中から突然現れた救世主に呆然としていると、「立てるか?」と言われ、差し伸べられた手を取り足に力を入れたら忘れていた右足の痛みがぶり返してきた。顔をしかめるセルジュに気付いたクルトはすかさず傷を確認して素早い動作で止血をする。
「セルジュ、俺の首に腕を回してしがみついていてくれ」
「…了解しました」
落ちたままだったライフルを手繰り寄せ肩に担ぎ、恥ずかしさをこらえて首に手を回す。そのまま力強い腕に背中を支えられつつ膝下から持ち上げられ、所望"お姫様だっこ"状態にされた。
「た、隊長…あの、これはちょっと…」
「走るぞ、揺れるが少し我慢していてくれ」
セルジュの言葉を軽く無視してクルトは無線で撤退を指示すると男1人抱えているとは思えない程の身軽さで、部隊の合流地点に向かったのだった。



* * *


「……いッ、っ…」
「はい、終わりましたよ。弾は貫通していましたけど神経には何の問題もなさそうです」
誰にでも優しい彼女は医療の知識も持っていたらしく、まだ止血しかしていなかったセルジュのキズを丁寧に治療した。「しばらくは絶対安静です。無理はダメですよ。」そう言ってニコッと笑い敬礼をしてから救護質を去って行く。セルジュも力の抜けきった敬礼を返したが、彼女が立ち去るのが早かった為にそれは意味を無くした。

「ほんと…ダメだな僕は…」
セルジュは自嘲気味にそう笑った。救護室には今セルジュ以外おらず、テント外からは忙しそうな雑音がくぐもって聞こえるだけだ。(幸い右足しか撃たれていない、手は使えるから狙撃できる筈だ)セルジュは己の手を見つめギュッと握った。

「セルジュ、起きてるか?」
「あ…はい、起きてます隊長。」
「足は大丈夫か?」
「神経に…問題はありませんでした、隊長のおかげです」
救護室に入ってきたのはクルトだった。
まだ忙しい筈なのに見舞いに来た隊長に礼を言うセルジュ。クルトはセルジュが横になっているベッドの隣に置いてある椅子に座った。
「俺がもっと早く駆け付けていれば負傷せずに済んだかも知れない…すまなかった」「…!?そんな」
突然謝ってきたクルトの言葉を慌てて否定する。だって、あの時彼が来なければ自分は死んでいただろう。…隊長が謝ることなんてこれっぽっちもない。むしろ自分こそ謝るべきだ。
「謝るのは僕の方です。不注意で負傷し隊長のお手を煩わせました…」「セルジュ…」「次の戦場では必ずお役に立ちます!!」
セルジュがそう息巻いて宣言すると、クルトは何が楽しいのかわからないが笑いながら「そうか」とだけ呟いた。それからしばらくの無言の後、急に頭を撫でられた。全く身構えていなかったので思わずビクッとしてしまっう。撫でる手は心地良く、セルジュに忘れていた暖かさを教えてくれているようだった。
「そんなに気張らなくてもいい。君は十分部隊に貢献しているし、我々の大事な仲間だ。」
(どうしてこの人は…いつも僕の言って欲しい言葉を言ってくれるんだろう)
なんだかとても嬉しかった。この人なら、自分の事を理解してくれるような気がした。
心の底から込み上げてくる初めての感情に、僕はまだ名前を付けられないでいた。



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この後どうしようかなww
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