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□五話
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 今日はクルト隊長が料理を作ってくれるそうです。でも、いつだかの時はカレーを作る為のスパイスに1日掛けたという前科があるのでみんな心配しているようです。

「おいクルト、本当に今日は大丈夫なのかよ」
「フェリクス…大丈夫だ、問題ない。今回の料理にスパイスは使わないからな。」

クルトはそう言ってまた料理をし始めた。なにやら煮込み系の料理らしく素材を放り込んではぐつぐつと煮ている。料理に関してはこだわりのある隊長だ。
しばらく待つと、いつもよりは遅かったが美味しそうな料理が運ばれてきた。どれも色鮮やかでとても食欲をそそる。するとテントに体調の悪そうなジュリオが入ってきた。
「悪かったなクルト、俺が風邪なんか引いちまったから」
「気にするな。それよりも早く良くなってくれると助かる」
「ははは、そうだな。早く治すよ」

ジュリオは422部隊の対戦車兵及びコックで、ここにくる前は色々と遊びまわっていたらしい。女性としゃべるのがとても上手だ。そんな彼だが、数日前の寒冷地作戦から風邪を引いてしまったらしく、「みんなにうつしたら大変だから」と言って料理は控えていた。だから代わりに隊長が料理をしていた訳だ。
「うん、すごく美味しいよクルト。スパイスだけじゃなく煮込みも得意なんだな」
「そんなことはない。何事も妥協は許したくないだけだ」
「ははは」「全く…クルトらしいぜ」
風邪を引いて舌が多少鈍っていても、クルトの料理を美味しいと絶賛するジュリオ。それにいつもの真面目な調子で返す。それを見て朗らかに笑うジュリオと、呆れ顔で両手を肩まで上げてやれやれポーズのフェリクス。

いつも通りの風景の筈なのに──何故か心がチクリと痛んだ。
ただ3人で話をしているだけだ、なんてことはない…はずなのに。おかしいな、僕の病気は心臓ではないはず…この胸の痛みは何だろう。隊長のおかげで幸せだったはずの心が、今は隊長を見れば見るほど苦しくなってくる。仲良さげに肩を叩き合う3人。ジュリオの手が隊長に触れる度に何故かイライラが募った。僕はそんな隊長達が見たくなくて食事を雑にかき込むとテントから出ることにした。



* * *



「…はぁ」
結局テントを出た後も自分の部屋に戻る気にはなれず、セルジュは人通りの少ない森の手前で切り株に座っていた。
見えなくなっても思い出すのは先程のことばかり。知らずため息ばかりが零れてしまう。するとそんな彼に近寄ってくる人が1人いた。
「どうしたの?何か悩み事?」
「リエラさん…」
夜闇にもわかるその朱銀の長い髪の彼女は、以前「死神」と呼ばれていた。しかしそれも今では隊長のおかげでなくなった。気配りを忘れない性格で、優しく包み込むような包容力のある女性だ。
リエラはセルジュの隣の切り株に座ると「あたしで力になれることがあるなら協力させて」と力強く言った。本当に…お人好しな人だな。
「なんだか最近クルト隊長が他の隊員の方と仲良くしているのを見ると…胸が締め付けられたように痛くなるんです」
「なるほどね…って、え!!?それって本当?!」
彼女は僕の謎の病状を真剣に聞いてくれたけど、なんだか後半驚いている様だった。その後も1人赤くなったり青くなったりしながらも「それは気のせいよ」と顔面蒼白に無理やり笑いながら教えてくれた。不治の病の僕より顔色悪そうだ…大丈夫かな。



* * *


 その後も胸に謎の痛みを抱えたまま、やはり気のせいではないんじゃないかと疑いつつも数週間。ようやく治った右足を見せに救護室に来ていたセルジュ。最初に面倒を見てくれたエイミーはすっかり担当医顔で「次からはミッションに出撃しても大丈夫ですよ」と言った。リハビリは追々やって行くとしよう。
エイミーに礼を言うとセルジュは次のミッションへの出撃許可を求める為に隊長室へと向かった。

───コンコン

「No.42…セルジュです。入ってもよろしいでしょうか」「どうぞ」
ガチャッと開けて入った中はいかにも隊長らしい部屋だった。棚には本やスパイス用のハーブなどが置いてある。松葉杖無しで立つセルジュを見て気付いたのか、クルトは「次のミッションから君には参加して欲しい。もちろん狙撃兵としてだ」と言った。さすが頭の回転が早い隊長だ、とセルジュは感心した。しかし、そのせいでもうここにいる必要はなくなってしまった。まだ隊長と2人きりでいたいという気持ちに、なかなか帰ろうとしない足。流石に不審がられるかと心配になってきた頃。気を遣ってくれたのか「そうだ、新しいハーブティーが手に入ったんだ。君も飲んでいかないか?」と言われた。
僕みたいな一兵卒が隊長とお茶なんかしていいものかと逡巡したが、それでも誘惑に勝てず気付けば首を縦に振っていた。「砂糖はいるか?」「いえ…要りません」「そうか」
短い会話でも僕の心は幸せに満たされてゆく。今まで感じていた胸の痛みは嘘のように消え、ただ穏やかに、けれど確かに高鳴っている。もしあるとすれば、余韻さえ甘さに変わった痛みだけだ。



 少しずつ、しかしいずれは気付くであろうこの気持ちに、今はまだ…知らぬ振りをしておこう。





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思ってたより長くなってしまったorz
そしてセルジュがもう焦れったい!!書いてる私が一番焦れているかも知れないwwあとクルト君の性格とか話し方をイマイチ思い出せない^q^
次こそ断章編!!←
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