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□六話
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「帝国軍の大部隊を前に友軍は陣地の放棄と撤退を正式に決定した」


──逃げることも進むこともできない、僕達422部隊通称ネームレス。

上層部からの新たな命令は正規軍大部隊の撤退援助だった。帝国軍との戦いに撤退を選んだ正規軍が、追撃を避ける時間稼ぎとして僕等を投入することにしたのだ。敵の数はこちらの何倍かも分からない大部隊、加えて撤退し始めたガリア軍を見て士気も上がっているだろう。そんな部隊の足止めをこんな1小隊でできるはずがない。上層部は僕等が死のうが問題ではなく、特攻させる気でいる。



「全滅しろってのか!冗談じゃないぜ!!」

皆の集まるいつもの場所でフェリクスは机を叩いて激怒した。フェリクスだけではない、他の人達も怒りや絶望を顔に浮かべていた。

「………」
「おいクルト、どうする気だ?」
「命令違反及び脱走は銃殺刑だ…やるしかない。作戦を練る、少し時間をくれ」

尋ねたのはジュリオだったがそれは皆の声でもあっただろう。この中には今すぐにでも脱走したいと考える者もいるはずだ。そんな皆の眼差しを一身に受けクルトはそう言った。しかし彼の顔もこの戦力差の為か厳しい。

 僕は思った。こここそが、僕に相応しい死に場所なんじゃないかと。セルジュは拳をキツく握り締め決意した。

「……隊長、僕がやります」
「セルジュ?」
「敵の足を止めればいいのでしょう?それなら僕ひとりで充分です」
「何言ってんだ?できるわけないだろう!」

するとやはりと言うか、お節介なフェリクスが邪魔してきた。

「考えがあるのか?」
「正規軍時代は狙撃兵でした。地形さえ利用できれば……敵部隊の足止めくらい僕ひとりでやってみせます」
「セルジュお前…!馬鹿なことを言うな!」

静かに聞いてきた隊長に意見を述べるとすかさずフェリクスが反対した。

無論リスクはあるだろう。普通たった1人で大部隊足止めなど死んでも無理だ。けど僕なら…この命と引きかえにできるかも知れない。
皆の為にこの愛する戦場で軍人として死ねる、役に立つことができる。これ以上の人生の終わりなど無い。


「やらせてください、隊長」

しかしそんなセルジュの考えを、クルトは断固として認めなかった。

「……却下だ。確実性がなさすぎる」
「っ!!」
「それに君の死は部隊に何の利益ももたらさない。却下する」


「……分かりました」

そう言って隊長は作戦を立てに行ってしまった。隊長の命令は僕にとって絶対だ。


でも僕は……────




「隊長、申し訳ありません。一度だけ、僕はあなたに背きます」




* * *



作戦を練っていた所に慌てた様子で隊員がやってきた。「隊長!セルジュがひとりで出撃しました」まさか…本当に1人で行くとは。セルジュを見捨てても状況は好転しない。それに…。

「俺はセルジュを許さない……出撃だ!」


セルジュの様子はいつもと明らかに違った。何故あの時もっと気に留めなかったのか。俺は心のどこかでセルジュなら無茶はしないだろうと安心してたのかも知れない。クルトは己の浅はかさを悔いた。


「死ぬなよ、…セルジュ。お前には言いたいことが山ほどあるんだ」




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