版権


□待ってた
1ページ/1ページ

※捏造、プロット無し、勢い書き、短い



季節は巡り、あの頃の若きエクソシスト見習い達もエクソシストとして認められ全国を飛び回っていた。
出会いと別れの春。
兄も色々あったが無事皆と同じくエクソシストになることができた。

桜並木の中、春風に吹かれ桜が舞い上がる。
眼鏡越しに見るその景色は、肉眼で見ればどれほど綺麗なことかと柄にも無く少し感傷的なってしまう。

散る花びらに塾生達との思い出が映るように流れていく。
教師としてエクソシストのことを教えた。けれど、同時に生徒達からも大切なことを教わっていたと気付いたのは一体いつのことだったか。
それを気付かせてくれたのも兄だったことは覚えている。

「兄さん…」

今はもう遠くへ旅立った兄へ想いを馳せる。
もらったもの、気付かされたことは数えきれない程。
自分は一体いくつ兄へ返せただろうか。

足下も、頭上も、一面桜色に囲まれたこの場所で、「好きだ」と告げた兄の桜色の頬を思い出す。
本当は自分が言おうと思っていたのに。
いつだって越されている。兄さんは反対のことを考えているみたいだけど。
きっと自分の方が越されていると思う。
いつだって気付けば兄の背中を見ているのだから。

兄には、この身に溢れる想いの一握りさえ渡せていない。

ふと風が和らぐ。春の香りに乗って懐かしい匂いがした。

「桜、綺麗だな。ただいま…雪男」

振り返ればそこには一年前よりも少し背の伸びた兄が立っていた。
短かった襟足は少し伸び、顔つきも幼さがなりを潜め少し大人びた顔がそこにはあった。

言いたいことは山ほどあった。
愛していると、言いたくて仕様がない。
好きだと言って抱きしめたい。
その口に想いを乗せてキスをしたい。

嗚呼、けれど今から言う言葉ほどふさわしいものはないと思った。

心の距離を縮めるように、歩を進め兄との距離を縮める。
大人になったって、桜の花びらを頭に付け笑う兄は昔と変わらず無邪気だ。そして自分の心を春風に舞う花びらのようにいとも簡単にさらってゆく。


「おかえり、待ってたよ兄さん」


春のうららかな日差しの中、桜と共に待ち人は来れり。



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ