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□一方その頃ローランドでは
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*未来捏造


 レムルスから与えられたあの一年間からもう既に三年が経った。
神により与えられる運命という名の呪いは、それさえも御することのできない人の『感情』によって打ち砕かれた。
歪んだ歯車は消え、狂った女神も勇者も、寂しがりやな悪魔も、勇者王も、もっともっと。
この世界に歪まされていたモノ達は全て、自分の手でつかみ取ることのできる本来の運命≪シナリオ≫を手にする権利を得たのだ。

もちろん世界が救われたのは救世主がいるからに他ならない。

 その救世主、ライナ・リュートは常に眠そうに緩んだタレ目を開けた。
朝だ、清々しいくらいの。
ライナは二度寝がしたくなった。
しかし隣で一緒に寝ていた親友兼恋人の男、シオン・アスタールはライナが目覚めたことに気付いた。
シオンはライナの寝癖でぐしゃぐしゃになった前髪をかき揚げ、その額にキスをする。
お次は頬をひと撫でして最後は唇に、朝からするには少し濃い感じのキスをした。

「おはようライナ」
「…ん…はよ、シオン、てか……朝から盛るなよ」

どちらかと言えば夜する感じの欲がくすぐられるような、そんなキスの仕方だった。
ライナは口では文句を良いながらも、まんざらでもない表情だ。
要するにただの恋人同士の朝のいちゃいちゃだ。恒例行事だ。

この三年間色々あった。
人に戻ったライナとシオンは、それでもやることがいっぱいあった。後始末というやつだ。
お互い一国の主という身分上忙しい。
ライナの国の王は三人いるので、負担は緩和されるだろうが、それでもバタバタしていたのは確かだった。
きっとそれ以上にシオンは忙しかっただろう。
だからその頃はすれ違いも多くてよく喧嘩をした。
喧嘩の理由なんてとても些細なもので、端からしたらただの痴話喧嘩だ。本人達は至極本気であったが。
それに恋人同士になったのは約一年前のことで、それまでは互いに好き合っていたのにバレていないつもりで過ごしていた(周りにはもちろんバレバレだった)
所望両片想いってやつだった二人の話はとりあえず置いておこう。

今はこうして二人暇さえ合えば、会ってくだらない話をして美味しい料理を食べて恋人らしくいちゃいちゃして夜は抱き合って寝てる。
それがどれだけ幸せなことか理解している二人は、一緒に居れる時間を大切にしていた。

「朝ってなんだかムラムラしてこない?それに明日にはもう出国だろ。だから、もっと触れていたい」

そう言ってシオンは、うつ伏せのまま顔だけ上げていたライナの上に、体全体で覆い被さる様にして密着した。
ライナの太もも辺りに固く弾力のあるものが当たった。

「当たってる…四六時中ムラムラしてるの間違いじゃねぇの。いい加減、国際会議の時くらいはセクハラをやめろよな」
「当ててるんだよ。国際会議なんて顔見知りばっかりだろ。別にいいじゃん、見せつけてやれば」
「俺は恥ずかしいの!!めちゃくちゃ見られてただろうが!視線がこれでもかとばかりに痛かった!」

ライナはその時のことを思い出したのか、恥ずかしさから顔を赤く染め、シオンへ抗議した。
顔見知りの大勢居る(むしろ顔見知りしかいない)会議室。
久しぶりに会ったからとは言え、ライナが入った途端ハグしてキスして机に押し倒すまでの流れる様な動作は僅か10秒弱というスピードで事を成したのは、どこの国の変態王だったか。
恐ろしいことに、シオンの部下であるフロワードが止めに入らなければ、危うく服を引ん剥かれていたとこだった。

「半年も会ってなかったんだぞ。…抑えられると思ってるのか」

真顔で否、無理に決まってる。とその後に続きそうな顔でシオンは言った。
なんなんだその「え?当たり前じゃない?」みたいなむしろライナが間違っているかのような態度。思わずため息が出る。

「はぁ…、いや…もういいや。それより腹減ってきたなぁ」
「言われてみれば。そろそろ起きる?飯運ばせようか」
「へ?ここに?…いやここはまずいだろ…だって……ううっ」

詰まった言葉の先は、二人が今寝ているベッドの惨状にある。
汗だかなんだかわからない液体でぐしょぐしょになってるシーツ。下着まで脱ぎ散らかされた二人の服。ゴミ箱に溜まったティッシュの…

「ああああああああダメ!!絶対にダメ!!ここで食事とかあれだろほら……不健全だからダメ。やっぱりちゃんとテーブルで食事は摂らないと」
「ベッドの上から一歩も動きたくないよ〜、な、昼寝王ライナの言葉とは思えないな」
「お前なぁ…いやまぁ確かに一日中この豪華なベットから動きたくないって気持ちはあるよ?けどさぁ、どう見たってこの部屋…怪しいだろ、むしろバレバレだろ」

ライナは半眼でシオンを見やると溜息を吐いた。
するとシオンはとんでもない爆弾発言を投下した。

「むしろもうバレてるよ。俺らがこの城でなんて言われてるか知ってるか?≪底無し絶倫王と気怠い色気の色情魔≫だぞ?何かのタイトルみたいだよな。このタイトルで俺ら2人の伝記でも出版するか?まぁ、さすがにシーツ汚し過ぎたよな。ははは」
「ははは…じゃねぇえええええええええええええ!!!!!うっそマジで?マジなの?!本云々はこの際突っ込むのも面倒だからスルーするけど……もう嫌だ…俺お嫁に行けない。…今度からどんな顔して城の人に会えばいいんだよ…最悪だ…フェリスにだけは…絶対に届いてませんように…」
「届いてるだろうな」
「……終わった…俺の人生終わった…」

ライナは呆然とあらぬ方向を見つめた。
それを見てシオンは苦笑する。

「まぁまぁ。けど知ってて何も言って来ないってのは…後が怖いよな」
「絶対イジメのネタにされる……あうぅ」

ライナは密かに心の中で涙を流した。


******

着替えを終えた二人は食事を摂るため移動していた。
本当は執務室に運ばせても良かったが、そんな場所では味気がない。
今日一日はライナとゆっくり過ごすと決めていたシオンは、城の中庭にあるガーデンを望める休憩スペースへと連れて来た。
庭には様々な草花が咲き誇り、その美しさ華やかさを存分に主張していた。
元々綺麗なのに、より一層綺麗に見える様職人に整えられどの花も草も芸術的な調和を魅せている。
さすが王の庭、と言ったところだろう。

「ほら、ここからだとこの庭が良く見えるだろ?ライナが入国する前日に整えさせた」
「あーうん、そうだな。てかさ、着替えくらい俺一人で出来たんだけど」

自慢げなシオンの話に適当に返事をするライナ。
どうやらこの万年眠気男には花より団子だったらしい。
もっとも、更に花より団子という言葉がピッタリな相棒がライナにはいるが。
いや、ライナの場合は花より昼寝か。

ライナはいつもやる気の欠落したタレ目を更に細めもう今にも寝てしまいそうな表情で、今朝の着替えについて抗議する。

「ん?ああ。だってさ、服脱がせるのも楽しいけど、着せるのも楽しいと思わない?」
「思わない」
「ああ……そっか。万年色情狂のライナに服なんか要らなかったな。それに変態マスターのライナにとって、服は脱がすものじゃなくて破くものか、なるほど」
「だぁっっっからぁ!!なに納得してんだよ!変態でもマスターでも無いっつってんだろうが!!」

そんないつも通りの他愛の無い話をしながら2人は丸く白いテーブルの、木で出来た椅子に座った。
ピッタリ隙間も無い程寄り添って。

椅子は円状の机に合わせ座れば対面になるように置かれていた。
もちろん普通に座ればライナとシオンは向かい合う形になるはずなのだが。

何の違和感も戸惑いもなく、ごく自然にライナの座った椅子の半分に陣取ったシオン。
それについて全く突っ込まないライナは、敢えて無視しているというより、この距離感に何の違和感も覚えていないようだった。
これがプライベートの時の2人の距離間。ほぼ0距離。

相変わらず、からかうシオンとそれにぎゃーぎゃー返すライナを、朝食を運んで来た使用人Aが見て……見なかった事にしたのだった。
人目くらい気にして欲しいものである、この馬鹿ップルが。
などと思ったとか思ってなかったとか。


************

朝食を食べ終えた二人はそのまま庭園の散歩道を歩いていた。

「あー食った食った」
「この後は何しようか。馬で遠乗りでもするか?」

久しぶりの祖国なのだから、きっと見て周りたいところもあるだろうと、シオンはそう思い提案した。
だがその提案はライナのアイデンティティと言っても過言では無い二言に押しのけられる。

「昼寝」
「…うん、まぁそう言うと思ったけど。睡眠のための睡眠をするくらい睡眠に余念がないライナだもんな」
「寝てれば万事上手く行くんだよ」

それはライナが寝ている間に他の人が頑張っているからだろなんて今更なことはもう言わない。
ふとシオンが下を見ると、そこには空きっぱなしのライナの右手があった。

「なぁライナ。手を繋ごう」
「え…きもいなお前、いきなりなんだよ」

ライナはどん引きっという様な顔でシオンを見た。
あれ?恋人同士じゃなかったっけ?俺たち。

「手、寒いだろ?」
「今夏だけど?なに、どうした?暑さと仕事のし過ぎでついに頭が変態ワールドに飛んだか。あー…ご愁傷様」

シオンはライナが来る日以外は、ほとんど執務室に閉じこもりきりである。
正直今が何の季節か、少し失念していた。

「そうか…夏だったな。別に季節なんかどうでもい…じゃなかった。ライナ、俺は低体温だから手を繋ごう、きっとひんやり気持ちいいぞ?」

季節関係なくライナとは手を繋ぎたいし、そこだけじゃなくてもっと他の所でも深く繋がりたいとか思っているがまぁ黙っておく。

「どうやっても繋ぎたいのか、シオンは」
「またまたー。ライナだって本当は繋ぎたいって思ってるくせにー」
「思ってねぇよ!!!それに…蒸れるから嫌だ」
「ほんとに?顔が赤いぞライナ。まぁいいよ。ライナが照れ屋なのは承知してるさ」
「うるさいな、別に照れてねーよ。勝手な妄想すんなよな。だいたい男同士で花園の中、手を繋いで歩いてるのを想像してみろよ。どうだ?」

シオンは想像してみた。
よく城に媚を売りに来る貴族達が手に手を取ってその肥やした体を揺らしながら花畑をスキップする姿を。

「吐く」
「だろぉ?っておい、吐くっておま…そこまではいかねぇけど」
「じゃあ寒気がする…あ、ちょうどいいな。今暑いし。ライナ、手を繋ごう。寒くなれるぞ。俺はポカポカになるけど」
「あーもうわかったわかった。繋げばいいんだろ、ほれ」
「握手じゃないんだぞライナ。こうだ、こう」

そう言ってシオンは指と指を絡め合わせて、所謂『恋人繋ぎ』というものにした。

「はぁ…満足かよ」
「ああ、幸せだよ」
「安い幸せだな」
「俺にとっては値段が付けられないくらい高価だよ」
「っ…とに、恥ずかしいやつ」




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れっつごうとぅうべっど

させる予定だったけど力尽きた\(^o^)/アオカンアオカン

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