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「………住む世界が違いやしませんか」

「そんなことはわかっておる!」

「怒鳴らないでくださいよう…」

半泣きの明海を見てスネイプはため息をつき、消ゴムに腰かけた

スネイプはひと呼吸おいた

「すまない…そんなに怯えることないだろう、君のほうが大きいのだから」

「そ、そうですけれども…」

「名前は」

「え?」

「名前も言えないのかね」

「…明海といいます、水圏環境研究科4年の…」

自然といつもしている自己紹介が口をついて出た

「わたしが元の世界に戻れるよう、協力したまえ」

「ぇえ…そんなぁ…」

学会に連れていかれる日も近いというのに明海の研究データはまだ出揃ってもいないのだ

「自分のことで精一杯なのに…」

「見たらわかる、机の上を散らかし過ぎだ」

「なら私に頼まないでくださいよう」

「情けない声をだすな!貴様それでも研究者か」

「研究者なんて偉いもんじゃないです…4年生なんて助手の助手の助手です」

スネイプはますます眉間に皺を寄せた

「とりあえずそろそろ教授が来ますから隠れてください」

「他言無用だ、お前以外に知られないでなんとかしたい」

名前を聞いておいてもうお前呼ばわりだ、と心のなかで憤慨する

「人形サイズのひとが喋ったなんて言ったら精神科に連れていかれてしまいます…まっぴら御免ですよ」

「では、心よく協力してくれるということですなぁ」

スネイプは薄い唇を歪め、本棚の隙間の空間に入り込んだ

研究室の扉ががらりと開き、教授が入ってきた

「なんだまた泊まったのか」

「おはようございます…そうなってしまいました」

教授はじろりと明海を見た

「午後の輪講の準備は」

「ま、まだです…」

教授はため息をつき、机の上に資料を投げた

「こんなに世話の焼けるやつは初めてだぞ…」

「ごめんなさい」

スネイプにも聞かれていると思うと余計に恥ずかしかった

なにが協力だ、バカ

研究室のストレスで精神的におかしくなってしまったのかもしれない

明海は心のなかで毒づいた

教授がぴしゃりと扉を閉め、出ていった隙にスネイプは机の上に現れた

少し期待していたのだが

夢であったということは、全然ない

さっきの会話を聞かれていたと思うと腹立たしくて、手元の資料から顔はあげないでおいた

「なんだね、それは」

「午後の輪講…勉強会みたいなものですが…その論文です、英語なのですぐ読めなくて…」

「ふむ」

スネイプは広げた資料の上にずかずかと土足で踏み込んできた

新聞を広げて読んでいると乗ってくる猫のようである

猫ほど可愛らしくは、全然ない

「あ、もしかして訳せますか?」

「……訳せる」

スネイプはぶっきらぼうに答えた

「要約してください!」

「断る、自分でやりたまえ」

「元の世界に戻る協力をするんですよ、協力っていうのはお互い…」

「甘やかすのは協力と言わん」

そうだ、スネイプは厳しい先生だった

明海は肩を落とした

どうせなら優しいルーピン先生とかが現れてくれたら良かったのに!

「要約してみたまえ」

スネイプがにやりと笑った

「合っているかみてやろう、これで貴様の学力が分かるというものだ」

嫌なやつ!嫌なやつ!

明海はいつも教授や先輩に向けて心のなかでついている悪態をスネイプにつく

「早くしたまえ」

スネイプが小さいくせに尊大な態度で見上げてきた

「はい…」

どうしてこうもわたしの人生はひとにハイハイ言ってるんだろう

明海は研究室という超現実に現れた超非現実であるスネイプとの間に交わしてしまった"協力"という言質を最早客観的に見ていた

おまじないの言葉を呟く

「あとは野となれ山となれ」

「真面目に訳せ、馬鹿者」

すぐさまスネイプの叱責が飛んだ


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