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綾美が自転車を加速させ、明海がスネイプを鷲掴みにしているころ

ここにも今後窮地に立たされるであろう少女がいた

いつも通り目覚ましがなり、しぶしぶ起きるとへばりついて寝ていた抱き枕の―ここまではいつも通りだったのだが

その反対側にまったく見覚えのない白目を剥き出した人形もへばりついていたのだ

「なにこれきっも…」

薄汚れたサンタクロース的な人形だ

明美は一切の躊躇いなくつまみ上げゴミ箱にぽいしようとした

「……とれない」

人形はぴったりとくっついている

びくともしない

白目を剥き出した人形の顔を見ていたら明美は段々腹が立ってきた

早く着替えてご飯食べて学校行かなきゃなのに

「ほんとなにこの顔…癪に障るとはこのことだわ」

もういっそのこと抱き枕ごと捨ててやろう

そう思って抱き枕を垂直に持ち上げた瞬間、あっさり人形は剥がれ落ちた

あまりに突然剥がれ落ちたせいでゴミ箱に向かおうとしていた明美の足は思いっきり人形を踏んだ

ぐにゃっとした感覚と共に、足の下から気持ち悪い音がする

「ぷぎゅるぶばぇぼぉッ……」

「きもッ」

「す、凄まじい目覚めを体験した…むしろ二度と目覚めぬところじゃ…」

足の下から声がした

慌てて足をどかすと人形が這いつくばっている

明美は動けず硬直してしまった

な に こ れ

「ホグワーツの校長を足蹴にするとは…貴様やりおるのぅ!ほっほっほ…げぽろばぉえばおッ」

先程まで白目だった人形は涎を垂らしながら言った

「汚いッ」

「貴様のせいじゃ!」

「人形のくせに動くからでしょ!」

明美もまけじとキレ返す

「や、やだ…人形のように端正な顔立ちじゃなんて…ダンビー照れちゃう」

人形はくねくねと腰を振り上目遣いで頬を赤らめた

「胸が悪くなる!!」

時計の針は既に8時半をまわっていた

「わたし学校行かなきゃなんだから邪魔しないでよね!」

「ほっほお?学校じゃと!儂も行く!」

人形は明美の足をよじ上ってきた

「いい太ももじゃ!ぐふふぶべぼぉえあっ」

蹴り落とされた人形は再び床に這いつくばった

「もーー!やだ、受験ストレスから変なもの見えるようになっちゃったのかなこれろくに勉強もしてないのに!」

「儂は夢でも幻でもないぞ!」

人形はめげずにてちてちと明美の足元を回る

「アルバス・ダンブルドアとは、儂のことじゃ!」

歌舞伎の見栄をきるような動作で人形がこちらを見た

「は…?」

明美は自分の部屋を見渡した

確かにここは自分の部屋だ

トリップとかしちゃってる訳じゃない

つまり

何故か分からないが、ダンブルドアが勝手に小さくなって来ているだけ

ということは

「なんでもいいからどっかいけ!!朝から迷惑をかけるな!!」

「いいんじゃ、いいんじゃ…どこへ行っても老人は邪魔物扱い…げほげほ…」

「急に老人のフリしても無駄だボケ老人!もとの世界に戻れ!!」

「儂も戻りたいねん!」

「おいキャラ変わってんぞ」

「来た理由も小さくなった理屈も帰る方法もさっぱりわからんのじゃ!ムズカチイ!」

「ムズカチイじゃねーよ考えろ!」

ふと再び壁掛け時計を見る

「あああぉあ遅刻だよ!!」

明美はダンブルドアをつまみ上げ廊下に放り出した

「制服に着替えるから出てろ」

「チッ」

「おい舌打ちしただろ!」

「ダンビーそんなことしてなーい☆」

大慌てで制服に着替えながら明美は既に1週間分の苛々を使いきった気がしていた

「一体全体どうなってんのよ、まったく」

「世の中荒んでおる」

ダンブルドアが他人事のようにのんきに言った

これが明美の癪に障ったのは言うまでもない



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