灼眼の死神〜蒼い穹と友の裏切り〜
□第1楽章、土の匂いと鳩の涙
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プロローグ。
ここは、ある国にある深い森の中。
森からは、地面の土を掘る音が、響いている。
そこには、不良が数人と、容姿淡麗な少年がいる。
少年は、不良の一人に体を押さえられている。
「離さないか!何故、こんな卑怯な事をする!
「はい、はい、うるさいから、お注射しましょうねぇ!」
そういった不良の一人は、少年の腕に何かを注射した。
それを注射された少年は、ガクリと力が抜けてしまった。
そのまま少年は、地面に掘られた人一人入る程の狭い穴の中に放り込まれる。
「何をする!ここから出さないか!」
這上がろうとしている少年の上から、大量の土が、落ちてくる。
「嫌だ!やめろ!誰か助けて!」
その叫びを無視するかのように容赦なく土が被さっていく。
「助けて!助けて・・・!誰か・・・。」
視界が遮られる直前、少年は、信じられないものを見て、言葉を失った。
―『おいで…。』
「えっ!?」
突然、自分を呼ぶ老婆の声と、鈴の音が頭の中に響いてきた。
少年の意識は、そこで途切れる。
「うっ…ん…。」
少年は、三途の川の畔で気がついた。
ゆっくり、上半身を起こす。
・
「やっと来たな。あんた、名前は?」
「…トーマ…。」
「トーマかい…あんた、いい目をしているね…。気に入ったよ。トーマ、お前に、死神代行を命じる…。」
老婆は、そういって右目を刳り貫く。
トーマは、老婆の顔を見てぞっとした。
顔を隠している黒いベールがはらりとなびいた時、顔がちらっと見えた。
(骸骨だ!この人は、死神なんだ…。)
刳り貫いた右目は、十字架のブローチに形を変える。
そのブローチを、胸元に付けられる。
その瞬間、トーマの頭の中に鈴の音が響いて、再び、意識が途切れる。
トーマは、ベッドの上で目が覚める。
立派な畳部屋と釣り合わないキングサイズの大きなベッドだ。
トーマは、ゆっくり、起き上がると、一匹の獣が近づいて来た。
猫のような姿をしているが、尾は三本ある。
「物珍しそうにジロジロ見るでない!ヴァイスが、恥ずかしがっておるだろう!」
獣から、老婆の声が、聞こえるトーマは、驚きてしまった。
「猫が、喋った…。」
はぁと、ため息をついて、つかつかとベッドに歩いてトーマの膝の上に乗る。
「猫ではない。犬神じゃ。」
・
「犬…神?それでは、僕は、死んでしまったのですね…。」
「お前さんの体はまだ、生きとるよ。じゃがじきに朽ちるだろね。」
「そんな…。じゃあ、僕は、これからどうすればいいんですか!?」
犬神は、落ち込むトーマに尾を近づけ慰める。
「簡単な事だ。わしの代わりに死神をしてくれればいいんじゃ。」
「僕が、死神に…?解らない!どうして僕がこんな事に…!」
犬神は、再びため息をついてトーマから離れる。
「まぁ、落ち着いて考えるんじゃな…。もう答えは出ているはずじゃからな。」
そう言い残すと、部屋を出た。
一人になったトーマは、訳が解らず、頭を抱えていた。
「僕は、死んだんだね。でも…何故、あの人が僕を?解らない!僕があの人に何をしたというんだ…。」
トーマは、気持ちを整理して記憶を辿り、ある仮説に行き届いた。
「答えは出たようじゃな。トーマ。」
部屋の隅から、再び老婆の声が聞こえて、その方に振り向く。
部屋の隅には、大きな蜘蛛がいた。
それを見てひぃっと身じろいでしまう。
「そう、怖がらんでもよかろう。心が決まったら身なりを整えてわしの部屋に来い。」
・
はいと一言返事をしてベッドから降りて、押し入れを開ける。
押し入れには、黒い燕尾を着る。
「そこに置いてある刀も忘れずに持って来るんじゃぞ。」
蜘蛛の言う通り、刀を腰に差し、部屋を出た蜘蛛の後を追う。
蜘蛛は、障子の前で止まる。
障子には、糸車を回している老婆の影がぼんやりと写している。
「あの、トーマです。入ります。」
『いいんや、そのままでいいよ。お前に初仕事をして欲しいんだけどね。』
トーマは、腰に差した刀を、蜘蛛に渡してその場で正座をする。
「初仕事ですか?」
「あぁ、なあに、仕事と言っても簡単な能力テストをすると思ってくれればいい。」
糸車を回す音が、ぱったりと止み、静かになる。
「能力テスト?一体何をするんですか?」
「それは、行く途中で話すよ。念のため、その死に蜘蛛を連れて行け。」
「はい、それでは、行って来ます。」
そう言うと、ゆっくり立ち上がり、蜘蛛に渡した刀を腰に差し直して踵を返す。
「あっ、あなたの名前まだ、聞いていませんでしたね。」
トーマが、そう言うと糸車は再び回りはじめた。
「わしに名などないよ…。まあ、おばばとでも呼んでくれ。」
死に蜘