声―ボクたちはその美しい蒼い花の名前を知らない―
□序章
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1、
―ガラガラガラ…!
「タイキ、しっかりしてよ!タイキ!」
幼なじみのアカリが、必死に声をかける。
「付き添いの方はここまでです。」
「お願いします、アイツを…タイキを助けて下さい!」
―バターン!
「アカリちゃん!」
「おばさん、ごめんなさい!わたしがついてたのに!」
「大丈夫。タイキが倒れたのはあなたのせいじゃない。」
アカリは、タイキのお母さんに抱きしめられた。
数時間後…。
「拡張型心筋症?」
「はい。残念ながら、この病院では、延命治療しか出来ません…移植手術が出来る程の設備がないので…。」
「そんな…あの子に死ねというんですか!?」
「しかし、まだ希望がなくなったわけではありません。紹介状を書きますので、ここに行ってみて下さい。」
この一枚の紹介状がタイキの運命を大きく、変えることになる…。
「タイキ、今日は元気そうだね。」
「あぁ。おかげさまで。」
タイキは見舞いに来たアカリと何気なく話をしている。
「なぁ…俺、死ぬのかな?」
「そっ、そんなこと…」
「わかってるよ…今度移る病院に行けば、治るかもしれない。」
「本当に?」
「あぁ。“神の申し子”がいる病院に行けることになったんだ。」
「えぇっ!その病院って、有名な政治家やお金持ちの人でも入院するのが難しいって、言われているあの病院に!よかったね!」
“神の申し子”
度重なる医療ミスで信頼を失い、廃れる寸前だったその病院が、独自にかつ密かに開発して誕生した少年。
その少年は、“世界的名医さえ匙を投げてしまう治療困難な難病をたちどころに治してしまった”とその病院で治療した人たちの口コミやインターネットで話題となり、世界で注目されていた。
人はこの少年を“奇跡の子供”“神の申し子”と呼んでいる。
その少年がいる病院にタイキが入院することになった。
・
タイキのそれと同じ頃、“神の申し子”と呼ばれる少年は…
重篤な病を患う少女の腎臓と肝臓を同時に移植する手術が行なわれていた。
臓器提供者の少年は全身の消毒を終え、その時を待っていた。
『準備は出来たか?キリハ。』
「…はい。」
「腎臓と肝臓を同時移植する手術だ。時間のかかる手術だが、いつも通りにしていれば大丈夫だからな。」
「…はい。」
キリハと呼ばれた少年は、手術室に入り、手術台に寝かされる。
準備を終え、執刀医が手術開始を知らせる。
患者の少女に麻酔が施される。
だが、キリハには施されず、そのままの状態で口から管を通される。
この日は専門医が世界各国から、キリハ目当てに集まっていた。
“神の申し子”ことキリハの臓器移植手術の様子を固唾を飲んで見守られる。
そのキリハは手術が麻酔を施されずに行なわれているため、退屈しのぎで悟られぬように様子を見ている医者の顔を見渡す。
ガラス張りであるが、生まれつき聴力が良いため、医者の声が聞こえる。
聞こえてくる外国語は全て、解る。
『素晴らしい!夢を見ているのか!?』
『この少年こそ神の子だ!』
医者たちは明らかに手術ではなく、キリハを賞賛している。