声―ボクたちはその美しい蒼い花の名前を知らない―
□第1章、邂逅-イノセントブルー-(キリハ目線)
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多臓器同時移植手術は無事に成功し、俺は病室に戻って来た。
看護師の女から、絶対安静を言いつけられて、ベッドの上で点滴を打たれた。
話によると俺の持つ自然治癒力と臓器再生を促進する作用があり、試験的に導入された新薬だという。
何もすることがなくじっとしていると、しばらくして、“先生”が病室に入って来た。
「今月ここに来る患者のリストだ。目を通しておきなさい。」
「はい。」
それだけ言って“先生”が病室を出た。
渡されたリストに大きな×がつけられた最初のページが目に入った。
「工藤タイキ…」
拡張型心筋症でこの病院に来る患者の1人だ。
×がつけられた患者は、“治療不可”という意味だ。
拡張型心筋症の根本的な治療法は、心臓移植しかない。
恐らく俺の噂を聞いた医者から何も知らずにここを紹介されたんだろう。
確かに俺は、骨髄や臓器の移植のドナーであことるが主な役割だが、心臓移植は一度もしたことがない。
前歴も記録もない。
そのことに関して不思議と気の毒とは思わない。
俺には、わからない。
人を思いやることが…
人を救うことの良さも
感動もない…
とにかく、情感が薄い。
ただ人に言われてることを淡々とこなすだけ。
それでいい。
俺にはそれしか出来ないのだから。
「キリハ、次の手術の準備をしなさい。」
…もう、半日過ぎたのか…。
「…はい。」
こうして、次の移植手術の準備へ向かう。