TOV

□少しの間だったけど
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「なぁ、青年」
ミョルゾへ向かう途中、近くにいた青年に声をかけた。
「何だよ、おっさん」
「おっさんさ、青年たちと旅するの楽しいわ」
青年は少し不思議そうな顔をした後、苦笑しながら答えた。
「急にどうしたんだ?」
「別に何でもないわよ。思ったこと言っただけ」
そう、思ったことを言っただけ。嘘の気持ちはない。
「そうか?何か思いつめてるように聞こえるぜ」
「そう?別になんでもないんだけどねぇー」
何でもないと信じたい。ココで信じたら気持ちが揺らぎそうなんだ。
「なら、いいんだけどな」
ユーリ、と呼ぶ声が聞こえて青年はそれじゃ、と片手をあげて行ってしまった。
1人、船の壁にもたれて座り込む。
「思いつめてる・・・・か。そんな風におっさん見えたかね・・・・」
頭をかいてため息をついた。
「本当に楽しかったのよねー、青年たちと旅するの」
レイブン!、という少年の声が聞こえてきたため
「はいはい、行くって」
とだけ返事をして立ち上がる。
ずっと遠くまで続く空と海を見る。
「ずっと、みんなと旅できたらよかったのにね」
なんてね、と自嘲的な笑いをした。
「少しの間だったけど楽しかったよ」
そうしてみんなの元へ向かう。

おっさんは今から青年たちを苦しめ、怒らせる悪となるだろう。
やりたくなくてもやらなければならない。それが義務だから。
そのときは嫌いになって、青年たちの手で葬ってほしい。
今のおっさんには生きる意味も希望も何もないから――・・・


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